見出し画像

ライジング! 第87回

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ

赤井稀彦(あかい まれひこ)。彼は照鋭社の役員で、戦車のようにパワフルに働くことから「タンクさん」の愛称で呼ばれている。ヒット漫画も数多く手がけ、漫画がエンタメのど真ん中にいた時代を最前線で駆け抜けたレジェンド編集の一人だ。
そんな赤井の最大の特徴は、かなりの酒好きということだ。ザルとも底なしともウワバミとも呼ばれるほど酒に強く、およそ潰れるということがない。むしろ飲めば飲むほどパワーを増していくので、一緒に飲みに行ったら朝までコースは覚悟しなければならない。基本的に絡み酒で、素直に帰してくれないのだ。
一方で飲むとすぐに顔に出るという特徴もあることから、飲んで顔が赤くなった状態を〝赤タンク〟と呼び、彼をよく知る人ほど〝赤タンク〟状態の赤井とはなるべく会わないようにしていた。

「飲みの誘いなら誰も乗らないですよタンクさん」

小柴の牽制に、赤井は手を振った。

「おおマメシバ。ちゃうねんちゃうねん。風のウワサでアプリが大変やって聞いてな。お前らが落ち込んどるんちゃうかなぁ思て様子を見に来ただけやねん。ハハハハ!」

「笑いごとじゃないですよ。もう大変なんですから!」

「せやな……笑いごとちゃうわな……」

急に神妙になった赤井は、ふと気になったように小柴に質問をした。

「飛んだ開発会社ってどこやっけ?」

「Eセサミです」

「ほぉ~……あっこはちゃんとしてるイメージやったけどなぁ。まあ最近は何かと大変みたいやからな~。うん、なるほどな~」

ますます神妙になった赤井に、野島が言い放った。

「陰気な顔で側にいられると気が滅入るんで、用がないなら帰ってください」

「なんやねん自分ら! 笑うな言うたり陰気な顔するな言うたり! せっかく心配して来てやったのに! まあ元気そうで良かったわ」

ニヤリと笑った赤井は「ほな頑張りや」と言って、編集部に背中を向けた。一応お茶を用意していた松田は赤井に駆け寄った。

「お帰りですか?」

「安心せい。飲みに戻るだけや」

「別に不安ではなかったんですが……」

「言葉のアヤやがな! ほんま親に似るっちゅうか、マメシバんとこの部下は歯に衣着せんヤツが多いわ。……あれ? 自分誰やっけ?」

「デジタル開発部の松田です」

「ああデジタルの……初めて顔見たわ。自分ちょっと有名人やで」

「えっ……それってどういう……」

不安になって聞いた松田を、赤井は手で制した。

「気にすな気にすな。まぁしかし、ええ話のネタできたわ。Eセサミさんがねぇ……」

そう言った瞬間、赤井は真顔になっていた。松田はその顔を横から見ていたのだが、赤井の目は冷徹に光り、鳥肌が立つほど怖かった。

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ

この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
1
集英社青年漫画誌『週刊ヤングジャンプ』の公式アカウントです。連載作品の各種最新情報はもちろん、様々な企画や記事も掲載していきます! 公式サイトはこちら:https://youngjump.jp/