ライジング! 第53回
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ライジング! 第53回

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実は食欲のなかった松田だったが、野島の話を聞いた後ではそんなことは言い出しにくかった。気にかけてくれた野島のためにも、嘘でも食欲のある振りをしなければ、という謎の使命感が松田の口を動かす。

「えっと、栄養満点でガツンとパンチが効いてて……でもあんまりヘヴィーじゃないものがいいです」

「……そんな食い物あるか?」

後半につい本音が出てしまい、野島を困惑させることになってしまった。これではまるで、一休さんに無理難題を押し付ける将軍様だ。

「あの、なんでもいいです!」

「それはそれで難しいんだけどな……。でもそうだな、せっかくここまで歩いてきたし、久々に〝山川〟でも覗いてみるか」

そう言うと、野島は腕時計に目を落とした。

「良い時間だな」

〝山川〟は大人気のうどん店で、昼時は常に長い行列ができている。しかし一五時を過ぎると、客足もやや落ち着いて来るので、運が良ければ並ばずに入ることができるのだ。現在時刻は一五時過ぎ。並ばず食べるのには、ちょうどいい時間帯だった。
しばらく歩き、店を遠目に見た野島は小さく天を仰いだ。
時刻は一五時過ぎなのに、行列が全く途切れていなかったのだ。店の外で待っているのは二十人ほどだろうか。仕方がない。こんな日もある。

「並ぼうか」

野島はそう言って松田と共に行列の最後尾につけた。
しばらくすると、店員さんがメニューをもって出てきた。席に座ってすぐうどんが出てくるように、並んでいる段階でメニューを聞かれるのだ。野島は釜たまの大盛りとかしわ天と野菜天盛を、松田はきつねうどんを注文した。
列に並んだお客さんが、一人、また一人、店内へと案内されていく。
並んでいる店の外にも、出汁のいい香りが漂ってくる。食事を終えて店を出てくるお客さんは「美味しかったね~」等と言い合っている。
最近食が細かった松田だが、胃が活発に動き出して急激に空腹になって来た。自分たちの番が来るのが待ち遠しい。

「野島さんはよくこの店に来るんですか?」

「いや、たまにだな。いつも並んでるから、人の少ない時間を見計らって行くんだ」

松田はその言葉を聞いて、野島が先ほど発した言葉を疑問に思った。さっき野島は腕時計を見て「良い時間だな」と言っていた。行列の少ない時間を熟知した野島が、「良い時間」だと言ったからには、並んでいる人は少ないはずだ。しかし実際は逆で、かなり人が並んでいる。つまり野島は、行列ができる時間を「良い時間」だと言ったことになる。松田は首をひねった。そしてある答えが頭に浮かんできた。
野島はあえて、自分を行列に並ばせるためにこの店に来たのではないだろうか。「良い時間」なのは、松田に何かを伝えるのに「良い時間」なのだ。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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