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ライジング! 第88回

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赤井が帰り、編集部には一種の弛緩したような空気が流れていた。すると、それをきっかけのようにしてまたクレーム電話がかかり始めた。匿名掲示板で誰かが「電話したらひどい対応をされた」と書き込み、周りを煽動していたのだ。やりとりもテキストでアップされていたのだが、編集部の誰もがそんな電話対応をした覚えはなく、ねつ造なのは明らかだった。
松田は夢岡の仕業ではないだろうかと思い、すっかりそんな思考をしてしまうようになった自分に落ち込んだ。それもで自らを奮い立たせ、クレーム電話を処理していると、野島がスマホを机に放り投げるのが見えた。

「ダメだ、知り合いのプログラマーは全滅だ。誰も手が空いてない」

〝マンガホープ〟は相変わらず動いていない。どうやら最初の方にダウンロードしたユーザーはサクサク動くようだが、後からダウンロードしたユーザーになればなるほど、不具合が生じるようだった。

「誰でもいいから、知り合いにプログラマーいたら連絡してみてくれ~!」

野島の叫びを聞いて、松田はゴクリとつばを飲み込んだ。心当たりが一つだけあったのだ。しかし、果たして連絡していいものか……。一瞬ためらった松田だったが、そんなことを言っている事態ではなくなってきている。クレーム処理が一段落したところでスマホを取り出し、電話帳からある人物の名前を選び、タップした。

「もしもし」

ちょうどスマホを触っているタイミングだったのか、相手はすぐに電話に出た。外にいるのか、街の喧騒のようなものが背後に聞こえる。

「もしもし、お久しぶりです照鋭社の松田です」

電話の相手は、かつて松田が企画したアプリ〝漫to漫〟を開発してくれた開発会社〝殿(との)システム〟の代表、大殿(おおどの)だった。アプリ開発に不慣れな松田の無茶振りにも根気良く付き合ってくれ、見事な手腕で想像通りにアプリを仕上げてくれた、最高の仕事相手だ。大殿の頑張りが無かったら、〝漫to漫〟は生まれなかっただろう。
それだけに、自分の行動でアプリを終了させてしまったことが心苦しく、ここ最近の松田は大殿に一度も連絡できずにいたのだ。

「お久しぶりです松田さん! お元気でしたか? もしかして会社をお辞めになったんじゃないかと心配してたんですよ」

「心配だなんてそんな……」

激怒されても仕方ないと思っていた松田は、心配までしてくれていた大殿の人柄に感激した。そして数年越しになってしまったものの、心の底から謝罪をした。

「〝漫to漫〟の件、申し訳ございませんでした。せっかくいいアプリを開発して頂いたのに僕のミスで……」

松田が言葉を詰まらせると、大殿からは意外な言葉が帰って来た。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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