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ライジング! 第44回

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会社に戻った松田が雑務をこなしていると、いつの間にか外が暗くなっている。時計を見ると二十二時過ぎ。集中していたので気付かなかったが、デジタル開発部のメンバーは、ほとんど家に帰ってしまったようだ。
自分もそろそろ帰ろうか。松田がそう思っていると、カバンを持った小柴がひょっこりとやって来た。

「まだやってたのかタイヨー」

「はい。僕に用事ですか?」

「いや、ライツにね。もう終わったけど。そしたらタイヨーの姿が見えたから声かけたんだよ」

小柴は松田の隣の机から椅子を引くと、ドカッと座った。

「そういやどうだった、Eセサミ」

「えっと、みんな机が綺麗に片付いてました」

「何そのピンポイントな感想!?」

「あ、いや、ウチとずいぶん違うなって……」

照鋭社の、特に雑誌を作っている部署には机が片付いていない人が多い。紙を扱うことが多いので物がどんどん増えて、机の上に山のように積み上がっていくのだ。中にはジェンガの最終局面にように、高度なバランスで本や資料が積み上がっている人もいた。

「ウチは机汚い人多いしなあ」

そういう小柴は、かなり机が片付いている珍しいタイプだった。一方の野島は物をどんどん積み上げるタイプで、彼の机は陰で〝サグラダファミリア〟と呼ばれていた。

「机はともかく、いい会社でしたよ。氷上さんもやる気あるし、心強いですよ」

「なら良かった。でもヒカミンはちょっと危ういタイプだからな」

勝手につけたあだ名で氷上を呼びつつ、小柴が腕を組んで口をへの字にした。
松田はてっきり小柴も氷上を高評価していると思っていたので、ネガティブな感想を持っていることが意外だった。

「そうですか? 有能そうだしやる気も満々で、良い感じじゃないですか?」

「ガースーも大推薦してたし、有能は有能なんだろうけどね……」

「じゃあいいじゃないですか」

奥歯にものの挟まったような言い方をする小柴に、松田は少しムッとしてしまった。小柴は一体何が不満なのだろうか。
その不満を見透かしたように、小柴が口を開く。

「タイヨーは車の免許持ってたっけ?」

「持ってますけど」

質問の意味が分からず、松田は首をかしげた。

「ハンドルには遊びがあるだろ?」

車のハンドルは、少し動かしただだけではタイヤが左右に動かないように設計されている。タイヤが動き出すまでにある余裕の部分が遊びと呼ばれ、この遊びがあることにより、車は運転しやすくなるのだ。

「遊びが無さ過ぎると思うんだよね、今のヒカミンには。重要なことにほど、遊びは必要なんだよ。操作ミスが命に関わる車のハンドルに遊びがあるようにね」

そう言うと、小柴はイスをグルグル回転させはじめた。

「このイスもきっと、仕事に行き詰ったときにこうやって回転して気分転換できるように設計されているんだよ。これも遊びだ」

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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