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ライジング! 第28回

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最近明らかに悩んでいる様子だった自分を、ご飯に誘ってくれた野島。きっと悩みを聞いてくれたり、いいアドバイスをくれたりするのだと思っていたら、会話すらできないような店に連れて来られた。それでガッカリしていたのだが、実はこの店に連れてきたのには理由があったのではないだろうか。
厨房には手を休めずに黙々と仕事をするコックさんがいる。

(野島さんが僕に見せたかったのは、このコックさんの姿だ!)

松田は自分の立場を、厨房にいるコックさんに置き換えて考えた。注文を聞き、黙々と求道者のように己の仕事に取り組む……。その姿勢は、今の松田に最も必要なものなのではないだろうか。
天神旭也の漫画をアプリで読みたい。そう考えている読者の願いをかなえられる人間は、日本に自分しかいないのだ。

(そうだ! 悩んでてもしょうがない。黙って自分のやることをやれ……野島さんはそれを伝えたかったんだ! そのために、この店に連れてきたんだ!)

松田はそう解釈した。そして一心不乱に食事を進め、最後の一口をゴクリと飲み込むと、野島の方をチラリと見た。

「ごちそうさまです」

野島もちょうど食事を終えて、「彼のも一緒で」と店員さんに言い、二人分の代金を払っている。
店を出ると、松田は野島にお礼を言った。

「ごちそうさまです! 自分は余計なことを考えて悩んでたみたいです。今日からまたがんばります!」

「ん? ああ、そうか……」

急にやる気がみなぎる松田を見て野島は、やっぱりこいつ、お腹がいっぱいになると元気になるヤツなんだ……と考えていた。
実はこれはかん違いなのだが、野島はそんなこと知る由もない。

(最近の若手社員の内面は複雑で、年を追うごとに理解が追い付かなくなってくると思ってたけど、お腹いっぱいになったら元気になるタイヨーは〝超〟がつくほど扱いやすいな)

かん違いを加速させる野島。そしてこの日は、もう一つ大きなかん違いが起きてしまう。きっかけは二人の会話だった。

「いつでもメシに連れてってやるから頑張れよ」

「はい! 必ず天神先生の作品を〝マンガホープ〟に載せられるようにします!」

「その意気だ。ちゃんとサインもらって来いよ」

野島は契約書に書かれるサインをイメージしながら言った。すると松田は、色紙に書かれるサインをイメージしながら言った。

「サイン……貰っていいんですか!?」

「もちろんだ。不安か?」

「はい、ファンです。だからこそ遠慮してたんですけど」

不安とファン。互いに「変な発音で言うな……」と思いながらも、その疑問を流してしまった。結果的に、会話は滞りなく続いてしまう。

「遠慮はいらない。絶対にサインをもらってこい!」

「分かりました!」

こうして、かん違いは解消されないまま、二人の会話は終わったのだった。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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