ライジング! 第30回
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ライジング! 第30回

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マメシバとは、新人時代に付けられた小柴のあだ名だ。語源は小さい柴犬の豆しば。ちょこまかと動き、人懐っこい反面、マイペースで頑固な一面もあり、手懐けるのが難しい。そんな豆しばに性格が似ていたので、苗字をもじってマメシバと呼ばれるようになったのだ。しかし、小柴より年次がかなり上の人間しか使わないあだ名なので、現在小柴をマメシバと呼ぶ人間はごくごく限られていた。

「まめしば……ってコシさんのことですか?」

「ああ。あいつを昔から知ってる人間はそう呼ぶんだ」

天神は小柴の少し生意気に見える笑顔を思い出しながら言った。

「……ほら、サインだ」

「ありがとうございます! 宝物にします!」

「今日は忙しいんだ。帰ってくれるか」

「はい。また今度お仕事の話をしに伺います」

まっすぐな目をしてそう言う松田に、天神は思わず「もうその機会は来ないぞ」と言いそうになった。この後自分がする電話で、この青年の運命は変わってしまうのだ。

「では失礼します!」

帰って行く松田の背中を見送ると、天神は携帯電話を手にとって、アドレスからヤングホープ編集部を探し出すと指でタップした。
呼び出し音が鳴っている。新人がいればワンコールで出る筈なので、若いものは出払っているか別の電話に出ているのだろう。四コール目にようやく受話器が上げられた。

「はい、ヤングホープです」

「作家の天神だが、マメ……いや、小柴編集長はいるかな?」

「少々お待ちください」

保留音が鳴る。そして今度はすぐに受話器が上げられる音がした。

「はい。小柴です」

天神は小さく咳払いをしてから口を開いた。


照鋭社に戻り、天神先生のサインが入ったカバンを、デジタル開発部の自分の机に置こうとした瞬間、上司が血相を変えて松田の元に駆け寄って来た。

「おい松田! すぐにヤングホープ編集部へ行け!」

「あ、はい」

「お前何かやらかしたな? 戻ったらすぐ来るように伝えろって何度も念押しされたぞ。あの小柴さんが、珍しく慌ててた」

「えっ……」

自分が何をやったか気づいていない松田は、この先自分に待ち受ける運命をまだ知らなかった。

「よう松田、とうとうそっちでもやらかしたか?」

先輩の野口は厭味ったらしい笑みを浮かべていた。最近仕事で調子のいい松田に対し、嫉妬に似た感情を持っていたのだ。

「また社内ニートに逆戻りですか?」

尚もニヤつく野口を無視して、松田は五階へと上がっていった。
編集部に着くと、小柴と野島が顔を寄せ合って何かを話している。そしてフロア全体もざわついているような空気だった。しかし松田が現れると、ざわめきがピタリと止み、みんなが横目で松田を盗み見ているような雰囲気になった。
松田は居心地の悪さを感じながら小柴と野島の元へ行く。
小柴が、ゆっくりと口を開いた。

「タイヨー、単刀直入に言うぞ」

松田はゴクリとつばを飲み込んだ。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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