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ライジング! 第26回

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野島が選んだ店は洋食屋の〝ジェラルド〟だった。ご飯でも食べながら、悩みを聞いてやろうと思っていたのだが、店員さんに「席は別でいいですか?」と聞かれたときに野島は思わず「はい」と答えてしまっていた。〝ジェラルド〟は人気店で、混雑時にまとまった席を確保するのは困難だ。そのため、お客さんが二人以上で来店した場合は、店員が許可を取った上でバラバラに座ってもらう場合があった。
もちろん、並びの席があくまで待つこともできたのだが、野島はいつものクセで席を別にするのを許可してしまったのだ。
野島は軽く後ろを振り向きながら松田に言った。

「タイヨーはこの店初めてか?」

「実はそうなんです。いつも行列ができてたので入れなくて」

「カレーが有名な店だけど、エビフライとしょうが焼きのセットがオレのオススメだ」

「分かりました」

松田が返事をすると、二人はそれぞれ別の席に案内された。

松田は混乱していた。野島が久々に昼ご飯に誘ってくれたので、てっきり食事しながら自分の悩みを聞いてくれるものだと思っていた。しかし連れて来られたのは、食事中にゆっくりと会話できそうにないお店で、しかも別々の席に座らされることになったからだ。

(一体どういうことだ……)

訝りながらも、松田はメニューを見た。すると、ついさっき野島に言われた言葉が頭の中に浮かんできた。エビフライとしょうが焼きのセットがオススメ。確か野島はそう言っていた。店内に漂うスパイシーなカレーの香りにも惹かれたが、松田は大人しく野島のアドバイスに従うことにした。
注文を終えて店内を見ると、調理白衣を着た店員さんが厨房内で忙しそうに鍋を振っている。コック帽をかぶっているので〝コックさん〟と呼びたくなる風体だ。
コックさんの手際に感心しつつ客の方に目を移すと、漆黒の何かにスプーンを差し入れている人の姿が見えた。

(あれは何だ?)

疑問に思って凝視すると、お米と真っ赤な福神漬けが目に入った。どうやらカレーライスのようだ。
見たこともないような黒いルゥのカレーを、サラリーマン風の男がまるで何かに急かされるように食べている。男性の顔はどこか使命感を帯び、見方によっては闇払いの儀式のようだ。
松田がちょっぴり恐怖を覚えたそのとき、ちょうどメニューが運ばれてきた。揚げ物が含まれたメニューなのに驚くほど速い。
しかし本当の驚きは速さではなかった。テーブルに乗ったお皿を見た松田は目を見開いた。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。


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