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ライジング! 第27回

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(で……でかい!)

お皿の真ん中にどーんと鎮座したエビフライは、松田の想像をはるかに超える大きさだった。
普段幕の内弁当で見慣れているエビフライとはまるでスケールが違う。人間でいうと大人と子供ほどの違いだ。しかも、まとった衣もパン粉を荒くひいているのか塊が大きく、燃え盛る炎のような荒々しさだ。
その巨大エビフライは、お皿を左右に分かつようにど真ん中に置かれている。右には、おろししょうがのタレがよく絡んだしょうが焼き。左には山盛りのキャベツの千切りと、小さなケーキカップの様な紙の器に入れられたタルタルソースがあった。

「いただきます」

小さく呟いて箸を割った松田は、今一度エビフライを観察した。
熟練の技で扇を開くように揚げられたエビの尻尾が、キャベツの山に寄り添い「ピン!」と天井を指している。まるで金のしゃちほこだ。
松田はエビを箸でつかんで持ち上げると、タルタルソースがたっぷり入ったカップに突っ込んだ。すぐさま持ち上げると、タルタルソースが荒い衣によく絡んでいる。
その部分に大きくガブリと噛みつくと、揚げたての温度と花咲く衣が口内を刺激した。
熱い……そう声に出しそうになった松田だったが、口から出たのは別の言葉だった。

「旨い」

ぷりぷり以外の何物でもないエビに、からりと揚がった衣の香ばしさと、タルタルソースの酸味と甘みが加わっている。
勢いで一本食べきってしまいそうになった松田は、キャベツを食べて小休止した。シャキシャキと噛んでいると、揚げ物に支配されていた口の中がリセットされていく。
少し冷静になった松田は、しょうが焼きの存在を思い出した。本来は主役を張れるメニューだが、エビフライの影響で少し影が薄くなっていた。しかし一度思い出すと、途端に食欲をそそる生姜の香りが強く漂ってくるから不思議だ。
皿に大量に盛られたしょうが焼きを大胆につかみ、口の中に放り込む。すると、一切期待を裏切らない完ぺきな味が口の中に広がった。豚バラ肉は綺麗にほどけ、火が通った玉ねぎは、ほんの少しシャキッとした歯ごたえだ。この玉ねぎの芯の残し方が、料理人の技量の高さを感じさせる。
松田はしょうが焼きの余韻の残る口にライスを掻きこみながら、ふと先ほどカレーを食べていたサラリーマンの方を見た。
すると、ちょっと前まで使命感に溢れていた男性の顔は満足感に包まれ、漆黒だったお皿は闇が晴れたように真っ白になっていた。男性は厨房にいるコックさんに「ごちそうさま!」と満面の笑顔で言い、弾む足取りで帰っていった。するとすぐさま、別のサラリーマンが疲れた顔で入って来る。
その一連の流れを見た松田は、不意にある考えが頭の中に湧いてきた。

(これは野島さんのメッセージなんじゃ……)

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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