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ライジング! 第65回

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もう一杯ビールを飲もうかとも思ったが、せっかく目の前に立体メニューというべきお酒の棚があるのだ。ここから何かを選ぶのも良いかもしれない。
そんなことを考えていると、勘のいい女性店員さんが「何飲まれます?」と聞いて来てくれた。松田は棚を見ながら目に付いたボトルを指さす。

「あれなんですか? お酒っぽくない名前ですけど」

「ダバダ火振ですね。ちょっと珍しい材料を使った焼酎なんですけど、何を使っているか分かります?」

愛嬌のある女性店員さんに微笑みかけられ、松田は己のインテリジェンスを見せつけたくなった。

「ダバダ……はっは~ん、わかりましたよ。ズバリ、コーヒーでしょ!」

キメ顔を作って言った松田に、店員さんがほほ笑む。

「ふふっ、ちがいます。そうおっしゃられる方も多いんですけどね」

そう言って店員さんは松田の目の前までボトルを持って来てくれた。そこには栗焼酎と書かれている。
ラベルには勢いのある書体で「火」という赤い文字が踊っていたが、松田の顔もそれに負けないぐらい赤くなっている。正解を確信して外したクイズほど恥ずかしいものはない。

「栗なんですね……僕はてっきりコーヒーかと」

「ダバダ~、ですよね。あのCMの曲印象深いですもんね」

するとそこで、二人のやりとりを横で楽しそうに聞いていた小柴が会話に入って来た。

「タイヨーはちがいの分からない男だな。〝ズバリ、コーヒーでしょ!〟とか言って」

小柴が変な声色で松田のマネをした。松田の顔がさらに赤くなる。

「そんな言い方してないでしょ!」

「ごめんごめん。そんな苦々しい顔するなよ。……コーヒーだけに」

「もういいですって! 店員さんもひいちゃってるじゃないですか」

「コーヒーだけに?」

そう言ったのは当の女性店員さんだった。愛嬌もいいが、ずいぶん機転も利くようだ。小柴がうれしそうに笑った。

「ははははっ! 冗談はもうこの辺にしとこうか。これ以上攻めたら今夜眠れなくなるだろうから。……コーヒーだけに」

「ロックで下さい!」

最後は小柴を無視して松田はダバダ火振りを注文した。女性店員さんは「かしこまりました~」と楽しそうにコロコロ笑ってお酒を作り始めた。
その笑い声を聞いていると、何だか自分まで愉快な気分になっていた。目の前にダバダ火振のロックが置かれる。飲んでみると、ほんの少し甘い。今の気分にピッタリのお酒だった。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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