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ライジング! 第2回

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〝マンガホープ〟事件から遡ること約二年前。松田太陽はボーっと窓の外を眺めていた。

雲がゆっくりと流れていく。

(あんな大きな雲だって、ちゃ~んと動いてるのになぁ)

照鋭社に入り、デジタル開発部に配属されて五年目。今年で二十七歳。つい半年前までは、充実した日々を送っていた。

「おいタイヨー、邪魔だ! どけ!」

先輩の野口浩二が松田のイスを「ドン」と蹴った。
先輩が太ってるから通れないんですよ……とは言えるわけもなく、松田は「すいません」と言ってイスを机に近づけ、背中側の通路を広くあけた。

「……ったく、やることないなら帰れよな、社内ニート」

独り言のように、しかし確実に松田に聞こえるようにつぶやく野口。

(くそっ……)

いっそコイツを殴ってクビになったら楽かもな、という考えが頭をよぎるが、行動に移す気力はない。

半年前、松田はある大きな失敗をしていた。
会社に与えた損失もかなりもので、松田は毎日のように失敗の原因を考えさせられ、それを周囲に説明する羽目になった。そんな毎日を続けているうちに、松田は次第に落ち込み、気力が萎えていったのだ。

基本的にはバイタリティ溢れる松田だったが、ひとたび落ち込むと、それを引きずってしまう傾向にあった。
ネガティブな感情は伝染しやすい。落ち込んだ人間を見ていると、自分まで気が滅入ってくるものだ。最初はなぐさめてくれていた同僚も、次第に松田との関わりを避けるようになっていた。そして今では仕事も任されず、松田はすっかり邪魔者扱いになっていた。

今日も今日とて仕事はない。そして何もしていないと、時間はゆっくり流れる。まるで拷問だ。自分がいつ帰ろうが影響はないだろうが、いなくなると陰口大会になりそうで怖い。だからまだ帰らない。
雲を眺めるのにも飽きた松田が、雑誌をパラパラめくっていると、部長が声をかけてきた。

「タイヨー、ヤングホープ編集部の小柴さんがお前を呼んでる」

「自分ですか?」

思い当たるフシは全くない。一体何の用だろうか……。小柴の存在は知っているが、仕事をしたことはなかったはずだ。

「五〇一の会議室で待ってるとさ。……今日はそのまま帰っていいぞ」

部長は良い厄介払いができたとでも言うように言葉を付け足した。
何だか嫌な予感がするが、行かないわけにもいかない。
松田はカバンをつかむと、廊下へ出て階段へ向かった。

エレベーターで行った方が速いのだが、小柴に会うのを少しでも先延ばしにしたかったのだ。とは言え、三階にあるデジタル開発部から五階のヤングホープ編集部までは、たった二階。すぐについてしまった。
軽く息を整え、五〇一会議室をノックする。

「どうぞ~」

軽い調子の声が返ってきた。
どこかお気楽に響くその声色に背中を押され、松田は「失礼します」とドアを開けた。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等はすべて架空のものです。
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