ライジング! 第66回
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ライジング! 第66回

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注文した品を全てたいらげ、松田は大満足だった。酒はいつの間にか小柴に合わせて日本酒になっていた。小柴はビールから焼酎に行き、日本酒を経て焼酎に戻る傾向にあった。松田は基本的にビールを飲みつつ、日本酒が来たら小柴に付き合う流れだ。

「けっこう飲みましたね~」

「飲んだな。繋ぎというか箸休め的に頼んだエイヒレが、結果的には酒量を増やした気がする」

松田たちは追加の注文でサバの塩焼きとアジフライ、それにイカバターと板わさとエイヒレを注文していた。もうお腹いっぱいだ。
すると店員さんがスススと近寄って来て、二人に質問をした。

「〆のカレーうどんが当店の名物なんですけど、召し上がられますか?」

言われてみれば、時折カレーのいい香りがしてきていた。かなりお腹はいっぱいだが、カレーうどんなら入る気がする。松田は迷わずに注文をした。小柴も「少な目で」と通っぽい注文をしていた。
数分待って出てきたカレーうどんは、木を削って作られた木目のお椀に入れられていた。黒とはいわないまでも、かなり深い色をしている。立ち昇ってくる香りはスパイシーで、家庭用カレーというよりは本格インドカレー寄りだろうか。麺はうどんにしては細く、かなり食べやすそうだった。麺以外に具は見当たらなかったのだが、様々な具材をトロトロに溶けるまで煮込んでいるのだろう。
熱そうなので恐る恐る啜ってみると、スパイシーな香りとともに和風だしの風味が広がった。さすが名物。今まで食べたことのない独自の味わいだ。
あっという間に平らげた松田だったが、スープが残ってしまっていた。これだけで飲むのも味気ないなと思っていると、店員さんが「ごはん追加されますか?」と質問してきた。残ったカレーの汁に合う分量を提供してくれるそうだ。
もちろん注文した松田はごはんも堪能し、すっかり満腹になってしまった。うどんからのご飯……二段構えの〆はかなり斬新だ。

「じゃあそろそろ行くか」

会計を終えた小柴に言われ、松田は席を立った。そして店を出るときに、扉に書かれている文字に目が行った。

「あれ……ここって紹介制のお店だったんですね」

「本当だ。紹介制って書いてあるな……誰の紹介もなかったけど入れちゃったね。ま、いいか」

紹介制だけど紹介が無くても入れてしまう店……。そんなゆるさも気に入った松田は、すっかりこの〝向月台〟という店が気に入ってしまった。
ビルを出て有楽町の通りに降り立つと、酔客が行きかう時間帯になっていた。狭い道を縫うように吹き抜ける夜風が頬に気持ちいい。

「二軒目は久々に〝惑〟でも行くか。銀座だと二人とも帰り道の途中だし」

「いいですね。僕あれからアードベック結構飲んでるんですよ」

そう言って歩き出した松田は、自分の足取りがまだしっかりしていることに気が付いた。今日は記憶をなくすことはないだろう。夢岡との飲みで乱されていた飲酒ペースが、小柴と飲むことで正常に戻ったようだ。
安心する松田だったが、一方で小柴が食事中に言っていた「近いうちに、大きな判断を下さなきゃいけなくなる気がする」という言葉が妙に引っかかっていた。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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