ライジング! 第37回
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ライジング! 第37回

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焼肉屋に入って約一時間。夢岡は自分の編集部での失敗談を嬉しそうに喋っていた。肉をジュージュー焼く音に負けないボリュームで、身振りをくわえて矢継ぎ早に喋る姿は、政治家の街頭演説にも似た雰囲気だった。とにかく誰かに聞いてほしくてたまらないのだ。
夢岡は何杯目かのビールを飲み干し、ジョッキを持ったまま体をひねった。そして「生おかわり!」と後方にいた店員さんに叫んでから、松田に向き直る。

「サンちゃんはどうなの? うまくやってる?」

「うん、まあね」

さすがに話も尽きたのか、夢岡が急に質問をしてきた。それまで聞き役に徹していた松田だったが、話すことは沢山ある。

「オレも結構やらかしてるよ」

「ははっ! でもオレほどの失敗はしてないっしょ!」

どこか得意気に言う夢岡に対抗心が湧いたわけでもないが、松田は自分がしでかした最大の失敗を話してやろうという気になっていた。デジタル開発部で窓際に追いやられるきっかけとなった、大失敗を。普段なら避ける話題なのだが、相手が久々に再会した友だちだという気安さもある。松田は少し緊張しながら口を開いた。

「漫画のマッチングアプリって知ってるか?」

「ああ、もちろん。〝漫to漫(マンツーマン)〟だっけ? うちの会社でも結構話題になってたな」

「その〝漫to漫〟を企画して作ったのがオレなんだよ」

「……マジかよ」

夢岡が口に持って行きかけていたビールジョッキを止めて、松田をじっと見つめた。
漫画のマッチングアプリ〝漫to漫〟は、デジタル開発部主導で開発した、ネームは描けるけど絵が苦手な人と、絵は描けるけどネームが苦手な人をマッチングするアプリだ。
松田が企画立案をして社内稟議を通し、大規模な予算を投じて作られた、一大プロジェクトだった。宣伝にも力を入れ、人気作家のネーム担当をアプリで探す企画もぶち上げ、マスコミにも取り上げられ、世間の注目を浴びる中でローンチされていた。
結果的にダウンロード数は伸び、数字としては大成功だったのだが、その後の展開は松田が予想だにしていないものだった。
マッチングアプリということで年齢制限は設けていたものの、データ上でのやり取りだけを想定していたので、出会い系のマッチングアプリと比べると〝漫to漫〟のユーザー登録審査は緩かった。その影響もあり、一八歳未満の子どもたちも数多くユーザー登録しはじめ、釣られるようにナンパ目的の登録者も増えてしまったのだ。ネームと称して自己紹介をアップし、連絡をくれた子と実際に会う。そんな例が、アプリ立ち上げから間を置かずに数多く報告されていった。
一緒にマンガを作る人を見つけたい、と真剣に考えて利用していたクリエーターは、自然とアプリを離れていき、「ナンパされました」といった報告がSNSにアップされるようになると、〝漫to漫〟は世間から冷たい目で見られ始めた。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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