ライジング! 第113回
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ライジング! 第113回

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「ではこれで話し合いは終わりですね。いや~良かった。もしお金を受け取っていたら、ナノ&ナノが業界の笑いものになるところでした。危ない危ない」

そう言ってにこやかに笑った権田は、ふと思い出したように言った。

「笑いものといえば、Eセサミさんが半端な仕事をして、いま業界の笑いものになっているそうですよ。御社の役員さんはお話がお上手でお顔も広い」

ローンチ日の深夜に編集部にやって来た、タンクこと赤井稀彦が飲み屋でさんざんEセサミの話をしたのだろう。松田は編集部を去る時の赤井の冷徹な目つきを思い出し、再びゾッとした。

「話がそれましたが、これはもういらないですね」

権田は契約書を取り出すと、その場でビリビリと破り捨ててしまった。

「既に支払われている開発着手金もお返ししようと思うのですが」

今回は支払いが二回に分けて行われることになっており、アプリの要件定義が定まった時点ですでに第一弾の支払いは済んでいたのだ。権田はそれすら返金するつもりのようだ。
しかし小柴は強い口調で固辞した。

「いえ、それはお納めください。仕事に見合った報酬をお支払いしたまでです。これで返金をしていただいたら、今度はこちらが笑いものになります」

「そうですか……」

権田は少しだけ思案顔になったが、あっさり「分かりました」と引き下がった。

「コッシー……ばさんがおっしゃるなら、そうしましょう」

「ありがとうございます、ダイ……偉大な権田さん」

「いえいえ。それでは失礼します」

そう言って顧問弁護士たちを先に帰らせた権田の元に、松田たちがすばやくスススと近寄って行った。そして、背後にいる服部に聞こえないように小柴が小声で言う。

「ダイちゃん、ナノ&ナノの会長なの? ……あ、ちょっとダジャレみたいになったけど」

「そうなんだよ。コッシーが照鋭社さんだってこの前初めて知ってコシぬかしたよ。……あ、私もダジャレみたいに」

妙に息の合う二人に対し、松田はため息交じりに言った。

「というか、二人ともいつものあだ名で呼んじゃダメでしょ」

「でもタイヨー、うまくごまかせてたよ」

「そうそう」

満足げな二人に対し、野島が冷静に言い放った。

「どこがですか。コッシーバさんと偉大な権田さんって、不自然極まりないじゃないですか。勘弁してください」

「そうかなあ。私は話をごまかすのは得意なんだけどなあ」

イマイチ納得していない小柴だったが、気を取り直して権田に向き直った。

「でも、何と言ったらいいか……御礼は改めて」

「いやいや、先払いで貰ったからいいよ」

権田はニヤリと笑い、クイッと酒を呷るゼスチャーをした。

「じゃあまた近いうちに」

最後にそういうと、背筋をしゃんと伸ばして去っていった。松田が権田の背中をボーっと見ていると、顧問弁護士の服部が不思議そうな顔で話しかけてきた。

「みなさん、何を話されてたんですか?」

「あ、ああ。今年のプロ野球どこが勝つかなって」

小柴はやはり、話をごまかすのが下手だった。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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