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ライジング! 第55回

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「いただきます!」

松田は油あげを少し脇によけつつ、うどんに箸をくぐらせた。麺を持ち上げるとボワっと湯気が立ち、一瞬だけ視界が閉ざされる。少し冷ました方がいいと思うのだが、もう我慢できない。松田はやけども恐れず一気に「ズババババ!」とうどんを啜った。
出汁をまとった、なめらかな舌触りのうどんが口にスルスル入って来る。噛むと麺はコシがありもっちりとしていて、小麦の香りもふんわりしてくる。
大量に口の中に入れたはずなのだが、麺は何のストレスもなく喉の奥へと消えていく。気が付くと松田は既に次の一口分の麺をすくっていた。体が麺を欲しているのだ。最近失せていた食欲がすっかり戻っている。二口目を啜り、水を飲んで小休止した松田は、ぶ厚いあげを二つに折るようにして箸で挟んだ。
油あげに吸われた出汁がジュワっと出てくる。油あげを伝って流れる出汁が、なんだかちょっぴりセクシーに見える。
それにしても大きい油あげだ。これだけ大きいと、遠慮している場合ではない。松田は大口をあけて、油あげに「ガブッ」とかぶりついた。甘みの強い出汁があふれ出て来る。不意に口に入って来る薬味ネギも良いアクセントだ。
うどんなんて大体どこも同じ味だろうと思っていた松田だったが、今は完全に考えを改めていた。
夢中で麺を啜っていると、野島オススメのかしわ天がまだ手付かずだったことに気が付いた。これも熱いうちに食べておかなければ!
松田は二つあるうち、大きな塊の方を箸で持ち上げた。ずっしりと重量が感じられる。

「んん!」

一口かじった松田は驚いた。とにかく肉が柔らかいのだ。ほとんど抵抗もなく歯が肉を両断してしまった。一体どういう肉を使い、どう下処理をしたらこうなるのか……。肉を惜しみつつ飲み込み、松田は自分の感動を野島に伝えた。

「これうまいっすね野島さん!」

「だろ? 今タイヨーが食ってるのは胸肉の方かな。もう一つはもも肉だから、またちがった美味しさが味わえるぞ」

「そうなんですか!?」

胸肉でもかなりのジューシーさだったが、もも肉になると一体どれほどになるのか。うどんのことをすっかり忘れ、松田はもも肉のかしわ天にかぶりついた。脂身はスナッキーに揚げられており、カリッと心地いい音をたてた。鳥肉のいい香りが鼻を抜けていく。

「んんんん!」

肉はジューシーの極みだった。まさかこれほどの肉汁と旨みが閉じ込められていようとは。
かしわ天で勢いがついた松田は、またたく間にうどんも完食してしまった。ほっと一息をつき、空になった器を寂しい気持ちで見つめる。

「行列ができるわけだ……」

松田は、明日からこの店に通おうと密かに決心していた。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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