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ライジング! 第111回

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ナノ&ナノとの支払いについての話し合いの場が持たれることになったのは、最初に電話があってから三日後のことだった。
照鋭社では改めて顧問弁護士も交えて検討がなされ、全額支払うしかない……という結論になっていた。契約書の文言をどう曲解しようが、アプリが納品され、それを承認したという事実がある限り、不利は覆せず全額の支払い義務は発生するらしい。
この件での支払いが確定すれば、小柴は〝マンガホープ〟責任者の任を解かれることが言い渡されていた。チームを一新するらしいので、野島や松田も同様だろう。
今日の話し合いが、三人で一緒にする最後の仕事になる。

「すべて我々が話しますので、御三方は黙って座っていてください」

顧問弁護士の服部が、松田たちに平坦な調子でアドバイスを送っていた。彼は常に真顔で、喋る時は口元しか動かないので、一昔前のCGゲームのようだった。

「話し合いはすぐ終わります。神妙な顔つきで座っていればいいですから」

「多少の嫌味を言うのもダメでしょうか?」

松田が手をあげて発言すると、服部は彼をじっと見つめた。表情は変わらないが、睨んでいるんだということは何となく分かる。

「ダメです。そんなことしても、百害あって一利なしです。ふざけた質問をしてると同席させませんよ」

松田は手をサッと引っ込めた。
何か質問しようとして手を上げかけていた小柴も、とっさに腕組みに切りかえていた。ふざけた質問をしようとしていたのだろう。

「よろしい。向こうは顧問弁護士と法務部の担当者、現場の菅さんとその上司に加えて、現・会長の権田さんもいらっしゃるんです。くれぐれも失礼のないように」

「会長も来るんですか!?」

松田が驚くと、能面のような表情だった服部がほんの少し眉根を寄せた。

「普通は同席しないんですが、我々を威圧するためでしょう。先方も本気です。値切り交渉は難しいかもしれませんね……と言ってる間に時間です」

腕時計をチラリと見て服部が立ち上がった。松田たちもそれに倣い、四人は会議室へと向かった。
部屋に入ってほどなく、受付から連絡が入りナノ&ナノ御一行がやってくることとなった。松田は神妙な面持ちで立ち尽くしていた。
コンコン、というノックの音が聞こえてきた。松田にはそれが、判決を言い渡す前に場を鎮める裁判官の槌の音に思えた。自分と〝マンガホープ〟の関係の終わりを告げる審判の音だ。

「失礼いたします」

慇懃無礼、と言いたくなるほど丁寧にお辞儀をして男が入って来た。彼が法務部の佐藤だろう。そのあと、弁護士バッジをつけた初老の男性がのそりと入室し、元気がなくこちらを一切見ない菅と、毅然とした態度の彼の上司が入って来た。そして最後に圧倒的な存在感を放ちながら入って来たのは、会長の権田だ。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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