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ライジング! 第110回

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「紹介するよ。この人は店の常連仲間のダイちゃん。キミら気付かなかっただろうけど、ずっと店の奥で飲んでたんだよ」

自分も気付かなかったことは棚上げにして、小柴がダイちゃんを紹介した。ダイちゃんは「よろしく~」と焼酎の水割りが入ったグラスを小さく掲げる。

「今度はこっちだな。ダイちゃん、この、趣味で切手集めてそうなのがヤジマ」

「ノジマです。趣味はテニスです」

「そしてその横の、授業中に鼻血出して急にクラスの注目浴びてそうなのが松田」

「なんすかそのイメージ」

「二人とも部下というか、プロジェクトチームのメンバー」

松田の不満を無視して小柴が言うと、ダイちゃんは興味深そうに身を乗り出した。

「さっき言ってた仕事でのピンチって、その二人も関わってるの?」

そのとき、タイミングよくお母さんがビールとおつまみを持って来た。

「はいはい先に乾杯しなさいな」

「実家みたい……」

松田のセリフは全員の心情を代弁していた。この安心感こそ〝若林〟の真骨頂だった。
みんなでお母さんに言われた通りに乾杯すると、リラックスムードはさらに高まった。

「せっかくだしダイちゃんに我々からボトルを奢るよ。会社から干されて、なかなか飲みに来れなくなるかもしれないしね」

「え~それは残念だな」

といいつつダイちゃんは満面の笑みだ。さっそくボトルのリストを見始めている。

「頑固なコッシーにちなんで〝一刻者〟にしようかな」

「いやいや、私は〝魔王〟だよダイちゃん!」

小柴が鼻息を荒くすると、野島が冷静に言い放った。

「調子に乗ってると〝百年の孤独〟になりますよ」

「な、なにぃ!?」

情けない声を出した小柴を、全員の笑い声が包みこんだ。松田は小柴を指さしながら笑っている。この一瞬だけは、仕事での嫌なことをすっかり忘れていた。
ひとしきりみんなで笑うと、ダイちゃんが焼酎ボトルのリストを置いて言った。

「よ~し、じゃあみんなが少しでも幸せになるように、縁起のいい名前の〝富乃宝山〟をいただこうかな」

「それだ! お母さん、〝富乃宝山〟のボトルをダイちゃんに」

小柴が注文すると、ダイちゃんは改めてにんまりと笑った。

「ありがとうコッシー。じゃあじっくり聞かせてもらおうかな」

「何を?」

「仕事の話だよ。おごってもらったんだから愚痴ぐらい聞くよ」

「よし、じゃあ今日はトコトン付き合ってもらうよ、ダイちゃん」

旨い酒と美味しい料理に優しいお母さんと気の合う仲間。この世のすべてがそろったような素敵な夜は、ゆっくりと更けていった。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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