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ライジング! 第12回

その日の夜、松田は小柴に誘われて〝きょん〟という焼き鳥屋に来ていた。野島は別件があったので、今日は二人きりだ。
〝きょん〟は出来てすぐの店らしく、看板や内装など、何から何までピカピカだった。

「こちらへどうぞ」

カウンターを通り過ぎ、奥にある個室に通された松田は、一杯目に生ビールを選んだ。

「タイヨーはビーラーなんだな」

ビール好きを意味する〝ビーラー〟という呼び名は、さほど一般的ではないものの、照鋭社では定着しており、比較的誰もが使っている。

「コシさんどうされます?」

「う~ん……じゃあ私も生を試してみるか」

「試す? 別に珍しい銘柄じゃないですよ」

メニューを見て首をかしげる松田に、小柴は「甘いなタイヨー」と言って話しはじめた。

「私も昔はそう思ってたんだよ。でもある日、とんでもなくマズい生ビールに出会ってね。キレの悪い苦みが舌に残って、香りも古くなったお茶みたいでさ。妙に酸味があるのに、ビールの風味は薄くってね。人生で初めて生ビールを残したよ」

小柴がそこまで話した時、店員さんがやって来た。小柴は話を中断して「生二つと、お任せのコースで」と注文すると、松田に向き直る。

「その店だけダメなビールを出してるんだと思ったんだけど、その後もたまに出会うようになったんだよ、マズい生に。高級店だからおいしくて大衆店だからマズい、ってわけじゃなくて、理由は分からないけど生のマズい店がある……。それに気づいてからは瓶ビールばっかり頼むようになってね」

小柴がそこまで説明した時、店員さんがビールが並々と注がれたジョッキを二つ持って来た。ジョッキ自体を冷やしていたらしく、周囲は霜が降りたように真っ白になっている。取っ手を持つと、ひんやりと冷たい。

「お疲れ様です!」

「お疲れ」

松田と小柴はジョッキを軽く重ね合わせ、ビールをグイッと呷った。

「……っはぁぁ! うまい!」

「うん、うまい」

満足そうに頷いた小柴に、松田は質問をした。

「結局、原因って分かったんですか? ビールのおいしさに差が出る原因」

「うん。分かった。ある日行った店でビールが飲みたくなったんだけど、瓶ビールが無かったんで生を頼んだんだよ。そしたら驚くほどうまくて。思わずカウンターの中にいるお母さんに『ここの生ビールはめちゃくちゃ美味しいですね』って言ったんだよ。そしたら笑いながらビールのおいしさに差が出る理由を教えてくれてさ」

そこまで言うと、小柴はジョッキを持ち上げてビールをごくごくと喉に流し込んだ。そして「ふぅ」と一息をついた。

この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。

▼つづく (次回更新1月10日予定)


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