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ライジング! 第10回

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松田がやる気になった次の打ち合わせでは、また別の変化が訪れていた。新しいプロジェクトメンバーが合流したのだ。

それがアプリ開発会社の大手、ナノ&ナノの菅雄平(すがゆうへい)である。彼は小柴がゲーム雑誌の編集部に配属されていたときに知り合った人物で、プログラミングにも詳しく、漫画も大好きらしい。であれば今回のプロジェクトのメンバーに入ってもらおう、ということで小柴が連れてきたのだ。

「デジタルに詳しいタイヨーはともかく、私や野島なんかはアプリ開発に関しては素人だからね。早めにプロに入ってもらうことにしたんだよ」

漫画アプリを作るとなれば、当然だが「漫画が読める」といったようなスタンダードな機能は必要になる。そして、それとは別に「詰め込みたい機能」を足すことになる。高評価ボタンをつけたいだとか、読んだ漫画にコメントが付けられるようにしたい……だとかだ。
この「詰め込みたい機能」をどこまで入れるか。その判断はとても難しいのだが、納期も予算も存在する以上、必ずどこかで線引きをしなければいけない。そのため企画段階で、アプリやプログラミングのことを詳しく知る人物に入ってもらって、その判断を一緒にしてもらった方が後々困らなくて済むのだ。

「どうも初めまして! ナノ&ナノでディレクターをやっている菅です! 小柴さんにこのプロジェクトの話を聞いて、一瞬で虜になっちゃいまして、どうかぜひ一緒にやらせてくださいということで仲間に入れてもらいました! 弱輩者ですが漫画愛はたっぷりあるので、どうぞよろしくお願いします!」

開発会社のディレクターということは、自身でもプログラムが組めるのだろう。依頼主と技術屋の両方の立場を知った上で、両者を繋ぐ橋渡しの役目を担ってくれるのだ。ほぼ九十度に頭を下げる菅に、松田も思わず同じ角度でお辞儀を返した。

「こちらこそよろしくお願いします」

顔を上げると、菅はニッコリ笑っている。年のころは三十代後半だろうか。体にぴったり会った紺色のスーツを着ており、ネクタイにはちゃんとえくぼがついている。
ちゃんとしてる人だな、というのが松田の第一印象だった。
顔合わせも済み、小柴が全員の顔を見回した。

「よし、じゃあ始めようか」

「はい。じゃあではまず想定されているローンチ日を―」


濃密な打ち合わせが終わり、松田はイスの背もたれに体重を預けて天井を仰いだ。だらりと伸ばした左手を何とか持ち上げ、チラリと腕時計を見ると三時間が経っていた。

(マジかよ……)

いつの間にこんなに時間が過ぎたのか、松田は不思議だった。流れる雲を数えていたときの三時間は、永遠のように長かったのに……。

そのままボーっとしていると、側に誰かが立つ気配がした。菅だ。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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