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ライジング! 第51回

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ローンチ日が決定してからは定例の会議にも、より熱が帯びてきた。アプリの画面イメージも次々に完成し、サーバーに繋いでいない状態ではあるものの、動作もチェックできるようになっていた。完成に向けて、どんどん進んでいる。そう実感できるような日々だった。
一方で、ローンチ日も確実に近づいてきていた。ここと決めてからは特に時間が経つのが早い。松田は言いようのないプレッシャーを感じ始めていた。そんな不安が悪い影響を及ぼすのか、松田は仕事でミスを連発するようになっていた。
メールの返事を忘れたり、資料を無くしたり、打ち合わせの時間をまちがえたり、電話を取り次ぐつもりが切ってしまったり。一つ一つは取るに足りないミスなのだが、連発すると周囲もだんだん白い目で見て来る。なんとかリカバリーしようと頑張るとどうしても時間を取られるので、全体的に仕事に支障が出てくる。こうして松田は毎日のように残業をしていた。
そんなある日、時計の針が十五時を指したときに、野島がデジタル開発部にひょっこりとやって来た。

「タイヨー、打ち合わせする時間あるか?」

「えっ、ああ、はい! 大丈夫です」

あわてて席を立ち、松田は野島に続いて廊下に出た。目の前には打ち合わせスペースがあるので、野島はそこに行くのかと思いきや、エレベーターに向かって歩いていく。ヤングホープ編集部のある五階に行くのだろうか。それなら電話で呼び出してくれても良かったのに。松田がそんなことを考えていると、野島はエレベーターに乗って一階のボタンを押した。
一階にも打ち合わせスペースはあるが、基本的に社員同士では使用しない。編集が持ち込み作家と会うときに使う場所だ。
不思議に思った松田が質問をした。

「一階で打ち合わせするんですか?」

「いや、打ち合わせはない。メシでも行こうと思って」

「え? メシ……ですか?」

「ああ。打ち合わせって言った方が出てきやすいと思ってな」

涼しい顔でそう言うと、野島は裏口へ行き、小さい金属製のドアから外へ出た。目の前にはラーメン店があり、たくさんの人が行列を作っている。一年ほど前の開店当初は比較的入りやすかったのだが、徐々に人気に火が付き、今では昼時になると毎日のように行列ができる人気店になっていた。

「ここは無理か」

野島はつぶやくと右に曲がって大通りへと向かった。そして歩きながら訥々としゃべり出した。

「会社入ってすぐのときに、会社で倒れて救急車で運ばれたことがあるんだよ、オレ」

「きゅ、救急車!? っていうか、急に何の話題ですか?」

「まあ聞けよ。倒れた原因はなんだと思う?」

いきなり重めのクイズを出され、松田は目を白黒させた。正解するのは無理だと思うが、不正解にしても言ってはダメな、〝不正解中の不正解〟がある気がする。
松田が慎重に、当たり障りのなさそうな答えを出してみた。

「過労……ですか?」

野島は首を振って、意外すぎる答えを口にした。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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