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ライジング! 第102回

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「オレが新人の頃も、校了の時期になると疲れ果てて弁当がなかなか喉を通らないようなときもあったな。でも、半ば無理やり食ってた」

そう言って野島は自嘲気味に笑った。

「さっきB弁当を思い出の味って言ったけどな、決していい思い出ばかりじゃないんだよ。新人の頃は散々やらかしたからな……。そんなやらかしも、B弁当を食うとどうしても思い出すんだ。だからかもな……過去のミスを忘れないように、自分を戒めるために、オレはたまにこのB弁当を食いに来るのかもしれない」

「なるほど……そうだったんですね」

松田は、野島が自分をこの店に連れてきた意図を悟った。きっと今日しでかした失敗を心に刻み付けるために、このB弁当を食べておけということなのだ。そしてこの先、定期的に〝かんきち〟に来てB弁当を食べ、今日のことを思い出せということなのだ。となれば、無理にでも食べておかなければならない。

「いただきます!」

松田は勢いよくB弁当に箸をつけ始めた。
ブリの照り焼きが、舌の上でホロホロと崩れていく。その余韻のあるうちに海苔の乗ったご飯を掻きこむ。海苔は軽く醤油につけてあるようだ。しかも海苔の下には鰹節が隠れており、海苔と醤油と鰹節の一体感で、おかず無しでもバクバク食べられそうな味わいだった。

「う、うまいっ!」

「ん? えっ……」

野島は驚いた。ついさっきまで「食欲がない」と言っていた松田が、急に勢いよくB弁当を食べ始めているからだ。どうして急にこんなに食欲が……。野島は自分の昔話が松田にスイッチを入れたことに気が付いていない。
一方松田は失せていた食欲がどんどん湧いてくるのを感じていた。おかずもご飯も松田好みの味で、食べれば食べるほど箸が止まらなくなってくる。途中みそ汁で気持ちを落ち着けようとしたものの、ダシが効いている濃厚なみそ汁は余計に食欲を刺激した。
さらに「今日の失敗を忘れないため」という大義名分もあるので、遠慮もすっかりなくなっていた。

「ああうまい! ご飯のおかわりってできますかね?」

「あ、ああ……百五十円でライスを注文できるぞ」

「よっしゃ!」

ガッツポーズを作る松田に、野島は若干ひいていた。お腹がいっぱいになると元気になるヤツだとは思っていたが、まさかここまで変わるとは思っていなかった。戦々恐々とする野島に追い打ちをかけるように松田が言う。

「僕、またこの店に来ます! 何回でも来ます!」

松田としては「今日しでかしたミスを定期的に思い出します」という意味合いで言っているのだが、野島には当然通じていない。

「そうか……」

そんなに気に入ったのか……と思い、食べ盛りの少年を見るような目つきで、じっと松田を見つめる野島だった。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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