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ライジング! 第91回

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「分かったぞ! ジャバウォックだ! あなたジャバウォックでしょ!」

「ど、どうしたんですか野島さん」

松田の困惑をよそに、野島は興奮した様子で河原崎を見つめている。一方の河原崎は、表情を崩さずに頭をポリポリと掻いた。

「そんなあだ名で呼ばれてたこともあったっけかなあ。昔の話だよ」

それを聞いた松田はパニックに陥った。まさか異名がつくほどの犯罪者なのだろうか。だとしたら自分はとんでもない人物を会社に招き入れたことになる。

「野島さん、ここは穏便に帰ってもらいましょう!」

松田が河原崎の肩を掴もうと手を伸ばすと、野島がその手をガシッと掴んだ。

「おい待て! この方をなんと心得る!」

格さんのようなセリフを放つと、野島は河原崎について説明を始めた。
河原崎護(かわらざき まもる)。少し昔の業界人なら誰もが知る伝説的なプログラマーで、常人では理解できないプログラム言語を扱って天才的なプログラミングをすることから、畏怖をこめてジャバウォックと呼ばれていた。ジャバウォックは『鏡の国のアリス』の作中の「ジャバウォックの詩」に出てくる怪物で、その名の語源は意味不明なことをぺらぺら喋る「Jabber」からきているという説がある。キャロルの「ジャバウォックの詩」自体もオリジナルの単語に満ちた美しい四行詩のため、河原崎の美しいプログラミングに通じるものがあったのだろう。
そう熱っぽく解説する野島の姿を見て、編集部員たちも色めき立っていた。しかし河原崎はどこまでも冷静だった。

「本当に昔の話だよ。今じゃプログラミングは趣味でやってるだけだからね。……てか、もう作業はじめて良い?」

「ぜひ!」

松田が言うと、河原崎がパソコンを操作し始めた。

「事情は大殿さんから聞いてるけど、普通こういう作業は開発コードとか渡してもらって、そっから始めるんだよね」

「それが僕らも持っていなくて、お渡しできないんです……」

申し訳なさそうな松田の言葉にクスリと笑い、河原崎は一度作業の手を止めた。そして背もたれにグッと体重を預けて言った。

「ん~……何がどうなってるかさっぱりだ」

一同の顔に落胆の色が浮かぶ。やはり天才プログラマーでもこの事態は打開できないのか。万事休す。松田がその言葉を頭に浮かべた時、河原崎があっさりとした口調で言った。

「だけど、応急処置ならいくらでもできるよ。とりあえず動くようにすればいいんでしょ?」

「で、できるんですか!?」

「うん。……一つだけ用意してもらいたいものがあるんだけど」

まさかハイスペックパソコンのようなものを要求されるのか。そう身構えた松田の予想を裏切り、河原崎は軽い調子で言った。

「とびきり濃いエスプレッソを」

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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