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ライジング! 第52回

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「栄養失調だった」

「ええ! 栄養失調!?」

「笑うだろ? この飽食の時代に、豊かな国に生まれて、会社勤めもして、何不自由なく暮らしていた男が栄養失調だよ」

野島は本当に恥ずかしそうに頭をかいた。

「当時はバリバリ働く男がかっこいいと思っててさ。家にも帰らず飯もろくに食わず徹夜続きで仕事してたんだよ。若いとある程度は無茶できるからな。でもあくまでも無茶できるのは〝ある程度〟なんだよ。その日も普通に仕事してたんだが、妙に体に力が入らないなと思ってたら視界がブラックアウトして気付いたら病院のベッドの上だった」

「大変でしたね」

「オレは大変じゃなかったよ。勝手に倒れて、後は病院のベッドで寝てただけだからな。大変だったのはむしろ周りだ。そもそもみんなに心配かけたし、実務上ではオレがいない間は同僚にオレの仕事をやらせてしまっていたし、上司は会社から働かせすぎだと注意されたと思うし。あのときのことを思い出すと本当に申し訳ない気持ちになる。だからそれ以来、オレはどんなに忙しくても、メシだけはなんとか時間を作って食うようにしてるんだよ」

喋りながら歩き続け、いつの間にか神保町交差点に来ていた。信号に捕まり、二人が足を止める。すると不意に野島が質問をしてきた。

「タイヨー、ちょっと痩せたか?」

「……かもしれません」

最近体重計には乗っていなかった松田だったが、ズボンのベルトがゆるくなっているのは感じていた。

「何か不安なことでもあるのか?」

野島に聞かれ、松田は自分の心と向き合ってみた。ここ最近常に感じているプレッシャーの正体は何なのか。仕事でミスするのも、食欲がなくなって痩せてしまったのも、そのプレッシャーに原因がある筈だ。しばらく考え、松田は考えをまとめた。

「〝マンガホープ〟のローンチ日が近づいていくにつれて、ちょっと怖くなってきたんだと思います。お金も労力も時間もかけて、手塩にかけて育て上げてきたものが、あと数か月で完成する。そしてその日から、厳しい世間の目にさらされる。なんだか導火線に火がつけられて、爆発するのを待っているような心境になっているのかもしれません。僕の場合は過去に一回やらかしてるんで、余計に怖さを感じているのかと……」

かつて開発した、漫画系マッチングアプリ〝漫to漫〟でのやらかしを思い出し、松田は胸が苦しくなった。あのときのように〝マンガホープ〟も、世間から批判されるのではないだろうか。それが怖かった。
野島は松田の話を頷きながら聞いていた。信号が青になり、二人が再び歩き出す。

「それはタイヨー独特の悩みかもなあ。まあメシ食ったら解決するだろ」

松田はお腹がいっぱいになったら元気になる。野島はそう思い込んでいるので、気楽にそう言った。一方松田は不思議顔だ。

「そ、そうですか?」

「そうだぞ。で、何か食いたいものあるか?」

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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