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ライジング! 第42回

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松田は定例の打ち合わせに来た氷上という男をじっと見ていた。丸い体をしている上に猫背なので、全体的に球体をイメージさせる。髪は短く切りそろえられているのに寝ぐせがあったり、小奇麗な格好をしているのに服に皺が寄っていたりで、ちゃんとしているのか抜けているのかよく分からない印象だ。

「何の問題もないです!」

口癖のようにポジティブな言葉を使っている。そんな氷上に、松田は自分と同じ匂いを感じていた。仕事が上手くいかず、くすぶった経験のある人間特有の影を感じるのだ。
長年日陰にいた人間が、ようやく光の当たる場所に出られたら、いつも以上に頑張ってしまう。無理もない。もう日陰には戻りたくないのだ。
テンションの高い氷上を見ていると、松田は必死に仕事をする自分とダブってしまい、思わず目を伏せた。自分も周りからこう見えていたのだと思うと、急に恥ずかしくなってしまったのだ。

(一緒に頑張りましょうね、氷上さん)

松田は手元の資料を見ながら、心の中で氷上にエールを送った。本気で〝マンガホープ〟のプロジェクトに取り組んでくれるメンバーが増えるのは心強いことだ。

(にしてもよく喋るなあ)

菅の紹介では凄腕プログラマーということだったが、それに負けないぐらい弁が立つようだった。
プログラマーは、ずっとパソコンに向かっているというイメージのせいか、口下手な人間が多いと思われがちだが、それはまちがいだ。実は筋道立てて話すのが得意な人は多い。
プログラミングは、プログラミング言語を使ってコンピュータに「どう動くか」を説明する作業だ。相手は人間ではないので、当然ながら行間を読んでくれたりはしない。「あとはよろしくやっといて」といったような、半端な指示を出しても決して動いてくれないのだ。事細かに、どう動くかを全て説明して初めて、コンピュータは動いてくれる。そんな融通の利かない相手と毎日接しているからか、プログラマーは人間相手に何かを説明するときも、順序良く情報の過不足もなく相手に話を伝えられるのだ。

「……というわけで、この機能はとりあえず外した方がいいと思います。もちろん、ローンチ後にバージョンを上げていって、ゆくゆくは実装することも可能です。何か質問ありますか?」

「ナッシン! ……みんなは?」

小柴の問いかけに、野島と菅が首を振った。
松田は説明の途中に疑問が幾つか湧いたのだが、喋っているうちに氷上が疑問を全て解消してしまっていた。打ち合わせするにあたって、氷上がしっかり準備をしてきたであろうことが伺えた。

「自分も無いです」

「OK! じゃあ今日の打ち合わせは終わり。ガースーに氷上さん、どうもありがとう」

「ありがとうございます」

菅と氷上が声を重ねた。菅は今日の打ち合わせにかなり手応えを感じているようで、いつにも増してニコニコしている。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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