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ライジング! 第47回

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バーのカウンターで突っ伏している松田の肩を、夢岡は揺り動かした。

「サンちゃん! そろそろ帰るよ!」

午前四時。さすがに飲み過ぎたなと夢岡は顔をしかめる。

「ああ、ドリー……オレ寝てたあ?」

「ちょっとだけな。タクシー呼んでくるから待っといて」

そう言って夢岡はバーを出てスマホを取り出した。空を見上げると、夜はまだ居座っていた。しかし闇はどことなくうすぼんやりとしていて、朝に取って代わられるのは時間の問題だ。
夢岡は履歴から、ある番号を選んでタップした。

「……起きてるかな~っと」

スマホを耳に当て、コール音を聞きながら夢岡が呟く。相手は五コール目で出た。寝ていたのか、声は少し不機嫌だ。

『もしもし……』

「もしもし、めちゃくちゃ良い話が聞けたよ、ハルちゃん」

『外にいるときはあだ名で呼ばないでって言ってるでしょ』

「わかりましたよ、編集長」

ニヤリと笑う夢岡の顔を、道ばたにいた野良猫が不思議そうにじっと見ていた。


氷上はパチスロ店の前で逡巡していた。
入ろうか、入るまいか。少し前までは、何の迷いもなく、それこそ我が家に帰って来たように店に入っていた。しかし、「日本初の青年漫画アプリの開発」という大きな仕事が舞い込んで来たのだ。これから忙しくなるのは確実なので、時間を浪費するような習慣は早めに改めておいた方がいいだろう。

「やめよう」

小さく声に出して気合いを入れると、氷上は店の前から立ち去ろうとした。するとその行く手に若い男が立ちふさがった。

「氷上さん……ですよね?」

知り合いだろうか。氷上は必死に相手の顔を思い出そうとしたが、どうにも思い出せない。

「失礼ですが、どちら様でしたっけ?」

「すいません、初めまして。私こういうものです」

男が名刺を差し出したので、氷上は受け取った。と同時に男は自己紹介をする。

「大波出版ヤングウェーブ編集部の夢岡です。今日は氷上さんにご相談があって伺いました」

「ご相談って……プライベートな時間にですか?」

「申し訳ございません!」

夢岡と名乗る男は、勢いよく腰を九十度に曲げて謝罪した。周囲の人が「何だ?」といった様子でこちらをチラチラ見ている。これではまるで自分が悪人のようだ。

「やめてください。もういいですから。何の用なんですか?」

「すいません。どうしても早めにご相談差し上げたくて」

「……なんでしょうか」

「ここでは人の耳がありますので、店の中でどうでしょうか? 騒がしい方が話しやすいんですよ。もちろん、メダル代はこちらで出しますので」

胡散臭い。かなり胡散臭いが、取って食われるわけではないだろう。話を聞くだけなら相手をしてやってもいい。氷上はそう思って「長居はしませんよ」と、まるで自分に言い訳するように言って店に入って行った。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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