ライジング! 第108回
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ライジング! 第108回

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「これは百パーセント支払わないとダメですね。仮に裁判になったとしたら確実に負けます」

「そんな……」

松田は膝をついた。小柴と野島もがっくりと肩を落としている。予想はしていたものの、改めて言われるとショックだ。

「どうしてそんなことに……」

松田の言葉に「契約なので」とあっさり答えると、男性社員は表情を変えずに続ける。

「できるとしたら、頭を下げての値切り交渉ぐらいでしょうね」

「何でこっちが頭を下げるんですか!」

「お願いする立場ですから。……もういいですか?」

またメガネを上げた男性社員は、返事も聞かずに自分の仕事に戻った。
とぼとぼ歩いて会議室に戻った三人は、無言でイスに座っていた。
〝マンガホープ〟はどうなってしまうのだろうか。
開発費は膨大だ。ナノ&ナノに全額支払った上に、システムを立て直してくれた大殿や河原崎たちへ支払いをすると、その時点で遥かに予算をオーバーしてしまう。さらにはアプリを維持していくランニングコストも常に発生するのだ。
小柴は、ローンチ後もユーザーが喜ぶような機能をどんどん追加していこうと考えていたが、今の状況では新機能の開発に予算を割いている余裕は無いだろう。せっかく息を吹き返しつつある〝マンガホープ〟が、大きく停滞してしまう。それに、今回の件で自分たちが〝マンガホープ〟の運営から外される可能性も大きい。初日のゴタゴタで印象が悪い上に、今回の支払いトラブルが重なったとあらば、上も黙っていないだろう。
かつてない重い沈黙が会議室を支配していた。
こういうときはリーダーの自分が何か言わなければ。そう思っていた小柴の耳に、明るい声が聞こえてきた。

「よっしゃ! こうなったらもう飲みに行きましょう!」

松田だった。
こういうときは真っ先に落ち込んで、誰かに励まされるまで沈みがちになっていた松田が、誰よりも早く立ち上がって叫んでいる。

「早めに仕事切り上げてさっさと飲みましょうよ!」

明らかにカラ元気だと分かる引きつった笑顔だ。声も少し震えている。しかし、必死に虚勢を張る松田の姿は、重苦しいムードを一変させた。

「いいこと言うじゃないかタイヨー!」

小柴は松田を見て目を細めた。出会った頃に比べて格段に成長している。若手の成長を見るのは、上に立つ人間にとって至上の喜びだった。

「もう今から行きましょう!」

野島もやけくそ気味に叫んでいるが、どこか吹っ切れた表情をしていた。

「じゃあ五分後に下で!」

松田がテンションを上げたまま言うと、小柴と野島は「了解」と声をそろえた。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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