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ライジング! 第1回

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「何ィ!! 開発会社が飛んだ!?」

それは大手出版社である照鋭社のヤングホープ編集部が立ち上げた漫画アプリ、〝マンガホープ〟ローンチ(配信開始)当日の出来事だった。

紆余曲折を経てようやくアプリを世に出せたプロジェクトメンバーは、ささやかな打ち上げとして中華料理屋を訪れていた。
テーブルに所狭しと並んだ豪華な料理を箸でつつきながら、互いの苦労をねぎらっていた正にそのとき、編集長の小柴に一本の電話がかかってきて冒頭のセリフとなったのだ。

小柴はスマホを持ったまま呆然としている。電話の相手は何かをしゃべっているのだろうが、彼は全く反応せず電話の反対の手で持ったレンゲで四川風の激辛麻婆豆腐をすくっている。
そして難しい表情のままレンゲを口に運び、真っ赤な麻婆豆腐を飲み込んでいた。

「開発担当者と連絡がつかないってどういうことだ……」

麻婆豆腐と交換のように吐き出した言葉は、その場にいたメンバーを凍り付かせた。

「それで不具合の状況は……わからない? 一体どうなってるんだ……」

そう言って小柴は麻婆豆腐をもう一すくい口に運んだ。

何かよくないことが起きている―

小柴の態度からも、そのことはよく分かる。
辛いものが苦手な小柴は、正常な判断ができるなら激辛麻婆豆腐など食べるはずがないのだ。
小柴の会話を聞いていた若手メンバーの松田太陽は、チャーハンの山に伸ばしていた手を止めて自分のスマホを取り出した。

(そんな……まさか!)

画面内の〝マンガホープ〟アイコンをタップする。
―動く。

一通り動作を確認したものの、不具合のようなものは見つからない。
他のプロジェクトメンバーも、松田と同じようにアプリを触っていたが、問題なく動いているようだった。

そんな中、電話を終えた小柴がスマホをポケットにしまって大きくため息をついた。

「コシさん、何が……」

副編集長の野島英介が小柴に尋ねる。

「ちょっと待て、水を飲ませてくれ」

小柴はそう言うと、近くのコップをとって中身をイッキにあおった。

それ、中身紹興酒ですよ……と、誰もが言い出せない中、小柴が口を開く。

「〝マンガホープ〟の動作不良の報告が増えてきているらしい。状況を確認するために開発会社に連絡したら、開発担当が誰一人いないそうだ……ダメだ、頭がクラクラしてきた」

それはお酒のせいでは……と、誰もが言い出せない中、松田はイスから勢いよく立ち上がった。
ガタン! と大きな音がして、自然とみんなの注目が集まる。

「僕、行ってきます!」

「行くってどこ―」

みんなの質問を振り切るように松田は出て行ってしまった。
彫像のように動かなくなった仲間たちを見て、副編集長の野島は号令をかけた。

「我々も会社に戻ろう! 状況確認して善後策を講じないと」

その言葉に、ようやく正気を取り戻したプロジェクトメンバーは、次々にカバンを持って店を飛び出していった。
残ったのは小柴と野島だ。

「コシさん、行きましょう」

「……あぁ。一個質問していいか?」

「何です?」

「口の中がめっちゃ辛いんだけど、何でだろう?」

「麻婆豆腐食べたからですよ!」

「麻婆豆腐を? なんで私が?」

野島は顔を伏せて、この人も大丈夫そうじゃないな……と、親指と人さし指で眉間をもんだ。

一方松田は、タクシーの中にいた。
行き先は〝マンガホープ〟の開発会社、E(イー)セサミだ。

運転手に住所を告げてシートにもたれかかった松田は、プロジェクト立ち上げから今日までのことを思い出していた。

開発会社がローンチ日にいなくなるという、前代未聞の事態を引き起こした〝マンガホープ〟事件。

どうしてこんな事件が起きてしまったのか。ここで、当日に至るまでにどんなことがあったのかを説明し、事件を紐解いていこう。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は等は、全て架空のものです。
著者 志田用太朗
京都府出身。小説家。
第16回エンターブレインえんため大賞優秀賞を獲得して、2015年にデビュー。
集英社みらい文庫からは
『僕らのはちゃめちゃ課外授業 一発逆転お宝バトル』
シリーズなどが好評発売中。
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