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ライジング! 第25回

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「――で、アップルパイとカヌレを食べて帰って来たと」

「はい……」

照鋭社に戻って来た松田は、ヤングホープ編集部で天神家訪問の顛末を小柴と野島に話していた。

「にしても天神先生もなかなか強情ですね、コシさん」

「そうだな。でもよくやった方だぞタイヨー。アップルパイとカヌレを食べられたわけだし。カロリー的にはプラスだ」

独特ななぐさめ方をする小柴だったが、松田の肩は落ちたままだ。

「でも、〝マンガホープ〟にとって大事な交渉だったのに……失敗してしまって、申し訳ないです」

その言葉に即座に反応したのは野島だった。

「何言ってんだ。まだ失敗って決まったわけじゃないだろ」

「野島の言う通りだ。我々も一回目でOKが貰えるなんて思ってなかったぞ。一打席目でホームランが打てたらそりゃ最高だけど、あの王貞治だって、通算成績でいうとホームランを打てたのは十打席に一回なんだから。タイヨーみたいな若手が、いきなり最高の結果を出そうと思うなんて、おこがましいぞ」

「はい……だけど何度もご自宅に伺っていいものか……天神先生迷惑そうでしたよ」

「迷惑は迷惑だろうな」

野島はあっさりそう認めてから、松田に諭すように言った。

「迷惑だろうけど、こういったお願いごとをされるのは人気作家の宿命なんだよ。だから我々は誠意をもって、何度も粘り強く交渉していくんだ。作品の電子化は、天神先生にとってもプラスになるって思ってるんだろ?」

「はい」

「じゃあ迷惑がられようが、またお願いしに行くべきと思わないか?」

「ですね……そうですよね! 分かりました!」

松田が人一倍乗せられやすい性格だということもあるが、野島は人にやる気を出させるのが上手かった。落ち込んでいたはずの松田が、もうすっかりやる気になっている。
その様子を見たポツリと小柴がつぶやく。

「天神先生もタイヨーみたいに単純だったらなぁ」

「ですね。あいつポーカーとかババ抜き弱いんだろうなあ……」

二人にそんなことを言われているとはつゆ知らず、松田は「よーし! 次はきっとうまくいくぞ!」と謎の自信を漲らせていた。

しかし、事はそううまくは運ばなかった。
その後、何度足を運んでお願いしても、天神旭也は電子化に同意してくれなかったのだ。原稿終わりに藤本と自宅へ行き、その都度断られて帰ってくる。そんな地獄のルーティーンが三か月以上続いていた。その間に変化したことといえば、松田の体重ぐらいだ。訪問した際に奥さんが必ずお菓子を持って来てくれるので、それを毎回食べていた松田は、ゆっくりと、だが着実に太っていった。
そんなある日、野島は松田を少しでも元気づけようと昼ごはんに誘った。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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