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ライジング! 第32回

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天神旭也が自作の電子化を許可してから数か月。青年漫画アプリ〝マンガホープ〟の詳細設計は、佳境を迎えていた。漫画アプリとしてのスタンダードな機能は入れ込みつつ、最初の段階で提案した膨大なアイデアをブラッシュアップして削ぎ落していく。最大のポイントは、ユーザーがいかに使いやすいかだ。
数十回の打ち合わせを経て、設計図はかなり形になって来た。

「では本日の打ち合わせを終わります」

菅の締めの言葉の後すぐ席を立った松田に、小柴が声をかけた。

「タイヨー、夜あいてる? 飲み行くか?」

「今日は無理です。では!」

松田はそう言うとデジタル開発部へと戻って行った。課内の仕事もかなり任され、多忙を極めているようだ。時折どうしても外せないデジタル開発部の仕事が入り、打ち合わせを欠席することさえあった。

「ちょっと心配だな」

小柴の独り言に、野島が反応する。

「そうですね、最近のタイヨーは働きすぎですよね」

「いや、そこはあんまり心配してないんだよ。あいつは限界が来たら限界ですって言えるタイプだから、働きすぎてつぶれるってことはないよきっと」

「じゃあ何が心配なんです?」

「飲みの誘いを断りすぎているところだよ」

真剣な様子の小柴を見て、野島は眉根を寄せた。

「それのどこが心配なんですか?」

「最近の若いのにはバカにされるんだけど、飲みニケーションって実際にあるからね。人と関わる仕事には特に。飲まなきゃダメって意味じゃなくて、飲みの席が避けられない業種は、普段から場数を踏んで、飲み会独特の会話に慣れておく方がいいってことなんだけど。じゃないと、飲みの席でピンチを招く可能性がある」

「そうですかね。自分はあまり、飲みニケーションの必要性は感じませんが……」

「大学時代にさんざん飲み会やったんじゃない?」

「ああ……。自分はテニスサークルだったんですけど、テニスやらずに飲み会ばっかりやってたんで、手に酒(しゅ)サークルと揶揄されてました。ラケットよりも、酒瓶をにぎった回数の方が多かったんじゃないかな」

「学生時代に一通り経験してる人間はいいんだよ。苦手なお酒や飲むペースに、限界酒量……あとは自分が酔うとどういう言動をするか。全部把握できてる子は、あんまり心配しないんだけどね」

「そういう人間の方が、誘い断らないですよね」

「大いなる矛盾だよ。心配な子のついでに誘ったら、ついでのヤツだけ来て上手に飲んで帰るっていう。でも、飲みニケーションが嫌がられるようになったのは、部下との飲み方が下手な上司が増えたせいでもあるんだろうけどね」

「断る部下にも理由あり……ってことですね」

「だな。……ちなみに今日飲みに行く?」

「予定があるんで」

「……そう。普通この流れで断る?」

「すいません」

「いいんだけども……」

消え入りそうな小柴の声を聞いて、この人は結局、誰かと飲みたいだけなんじゃないだろうか……と思う野島であった。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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