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ライジング! 第8回

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漫画アプリを開発するにあたり、最初に行われるのは企画会議だ。どんなアプリにするか、どんな機能を入れたいかを徹底的に話し合うところからスタートする。

松田は毎日のように小柴や野島と打ち合わせをしていた。

まだ全く存在しない〝マンガホープ〟の輪郭をぼんやりと描くような作業だ。打ち合わせ中の松田は話を聞くのがやっとで、必死でメモを取りながら話題から振り落とされないようにしていた。

その日の議題も語り尽し、そろそろ終わろうかという頃合いに、松田は小柴に質問を投げてみた。

「そもそも何でこの企画を立ち上げたんですか?」

今さらではあるが、そういえば聞いていなかった根本的な疑問だ。小柴が口を開く。

「新しいことがしたくてね~。ヤングホープはWEBはあったんだけど、アプリは無かったんだよ。んで作ってみるのってどうかなって野島に相談して。……な?」

「はい。紙メディアってのは実際問題、年々売り上げを落として行ってて。そんな中で新規読者を獲得しようと、紙だけでやっていくのは違うとコシさんもオレも思ったんだ。紙でやり尽された漫画の表現も、媒体が変われば違う形を見せられるかもしれないし」

「面白い漫画もたくさんある。才能のある作家さんもいっぱいいる。なのに年々注目されなくなってきている。原因はどうあれ、これは編集がどうにかすべき問題だと思った。日本中、世界中に面白い漫画をアピールしていかなきゃなって。だから、ヤングホープブランドをもう一度立ち上げる意気込みで、アプリ企画を出したんだよ」

熱っぽく語る小柴と野島を見て、松田は少し圧倒されていた。自分も二人のように真剣に取り組めるだろうか。そんな不安が見透かされたのだろうか、小柴が軽い調子で笑いながら言った。

「大げさなこと言ったけど、なんか楽しそうだからやってるだけだったりもするけどね。同じことばっかやってると飽きるじゃない? 〝飽きないことこそ商いだ〟ってね。……あれ、ちょっとこれ名言出ちゃったんじゃない!? 私すごくない!?」

急に騒ぎ出した小柴を横目に、スマホをいじりながら野島がつぶやく。

「……軽く調べただけでも、色んな人がさんざん言ってますね。けっこう昔からある言葉みたいですよ」

「くそっ! 先を越されてたか! もうちょっとだったのに!」

(全然もうちょっとじゃない気がするけど……ってか何の話してるんだろう)

松田は小柴のくやしそうな顔を見ながら、話の脱線具合に困惑した。ここからどう話を続けたら良いものか……。すると野島が、手帳型のスマホケースをパタンと閉じた。

「とにかく、今回の企画は誰にも先を越されないように、〝青年漫画誌初〟の漫画アプリにしましょう」

「そうだな」

話がうまく着地してしまった。松田は感動を覚える一方で、自分は今日の打ち合わせで何か役に立っただろうかと考えた。……立っていない。己の存在意義に疑問を持っていると、野島が声をかけてきた。

「昼はだいぶ過ぎたけど、メシでも行くかタイヨー」

「あ、はい……」

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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