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ライジング! 第49回

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Eセサミの新人プログラマー、郡家亮(ぐんげ りょう)は、トイレの個室に入るとグッと握りこぶしを固めてガッツポーズをした。つい今しがた、氷上が指揮を執るプロジェクトに参加するよう上司に言われたのだ。
郡家にとって氷上は憧れの存在だ。Eセサミに入ったのも、氷上の近くで働きたいから、という理由からだった。
確か氷上のチームは、漫画アプリのプログラミングをしていたはずだ。かなり大きな仕事らしく、エース級のプログラマーが数多く投入されていた。そんなチームに自分が入れるんだと思うだけで、心は弾む。
話によると、開発に新人を入れようというのは氷上の提案らしい。そのあおりでベテランが何人か別のプロジェクトに配置換えされて文句を言っていたが、郡家には関係ない。この業界ではそんなことは日常茶飯事なのだ。

(あ、やばい。そろそろチームミーティングがはじまるぞ)

にやけ顔をシャキッと引き締め、トイレの個室から出ると、郡家は氷上のいる作業部屋に入った。そこで簡単なミーティングをすると説明されていた。

「失礼します」

郡家が部屋に入ると、新人を中心にしたメンバーがそろっていた。ベテラン社員は誰もおらず、氷上だけが極端に年上だった。

「そろったな。始めるぞ」

「えっ」

郡家は思わず声を出してしまった。大きなプロジェクトならば、この人数では手が足りないと思ったのだ。

「何だ新人? 何か文句でもあるのか?」

「いえ……」

氷上の棘のある言い方に、郡家は思わず首をすくめてしまった。氷上がしばらく社内でくすぶっていたことは郡家も知っている。しかし最近の氷上は、社内でチラリと見ただけでも分かるぐらい生気に満ち、目に光があった。ところが、だ。
今の氷上はポジティブな雰囲気がすっかり消え失せてしまっている。

「じゃあ説明するぞ~」

そう言って氷上は部屋にいるメンバーに簡単な指示を与え始めた。仕事の規模とプログラミングに参加するメンバーの数を考えると、一人が請け負う仕事は相当な分量になる筈なのに、あっけないぐらい軽い作業しか振られない。疑問に思っているのは郡家だけではないだろう。でも、みんな黙って氷上の言葉を聞いている。
仕事が多すぎて不満に思う人は多いが、少なくて文句を言う人は少ない。特に最近のEセサミはデスマーチ続きで、全員がオーバーワーク気味だった。疲れ切っているところに配置転換で別のプロジェクトに参加させられ、どれだけ働かせられるんだとビクビクしていたら、あまり仕事を振られない。拍子抜けしたと同時にホッとしている……といった所だろう。

「じゃ、ぼちぼち始めてくれ」

氷上のかけ声でそれぞれが作業に入る。プロジェクト進行中の作業部屋には、何か特有の熱気があるものだが、この部屋にはない。郡家は不安を抱えながら作業を始めた。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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