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ライジング! 第92回

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エスプレッソをお供に、河原崎が作業を始めていた。大殿と彼の会社のメンバーも遠隔で作業に加わり、〝マンガホープ〟復旧作戦がついに動き出した。
編集部員たちは、あまりプレッシャーになってもいけないということで、少し離れた場所から様子をうかがっている。小柴もその一人だ。

「あれだなタイヨー、プログラマーって作業中はずっとキーボードをパチパチ叩いているものだと思っていたんだけど、そうでもないんだな」

河原崎は画面からは一切目を離さないものの、時折じっと考え込むように腕を組んではキーボードを打つ手を止めることがあった。ひとたび打ち始めるとマシンガンのように連打するのだが、考え込んでいる時間も多い。

「そうなんですよ、コシさん。プログラマーってコードにする構文を考えては打ち込んで、色々試しながら作業を進めるものなんですよ。プログラミングっていうのは、コードを打ち続ける作業ではあるんですけど、考える時間も結構あるんですよね」

「ふ~ん。そもそも天才プログラマーって普通のプログラマーと何がちがうの? 例えば、漫画アプリなら誰がプログラミングしても同じ結果にならない? 革新的なページのめくり方とか開発するわけじゃないでしょ?」

「そうですね。……例えばですけど、タクシーで目的地へ行くとして、結果的に同じ目的地には着くんですけど、良い運転手と悪い運転手がいますよね」

「いるね。遠回りは論外として、急ブレーキや急発進が多かったり、眠りたいのに話しかけて来たり、逆に話しかけても不愛想だったり」

「良い運転手は最適な道で安全で素早くお客さんを目的地に運ぶじゃないですか。プログラマーも似たようなもので、同じ命令でも何十行も使う人もいれば、一行で済ませる人もいるんですよ。この辺はセンスと言ってもいいかもしれません。センスがある人が天才って言われますね」

松田の説明に、小柴は納得したように頷いた。

「なるほどね。アプリでいうと、結果的にはどちらも動くけど、プログラミングの良し悪しで処理スピードに差が出るのか」

「天才のプログラミングは無駄が無いんですよ。震度七の地震に耐える建物を作れって言われたら、柱を立てまくって梁を渡せばできるにはできるんです。でもそれじゃあお金もかかるし見栄えも良くない。それを必要最低限でやるのがセンスのある天才プログラマーなんです。業界でよく言われる話なんですが、月給三十万のプログラマーが十人いても一生できないような仕事を、月給三百万のプログラマーは一人でパッとやってのけてしまうこともあるんです」

「じゃあ……えっと、彼の異名なんだっけ、カバオくん?」

「ジャバウォックです。全然違うじゃないですか」

「ジャバウォックさんが来てくれたのは僥倖だったんだな」

「僥倖中の僥倖です」

クレーム電話も減ってきた深夜の、少し静かになった編集部で、河原崎がまたキーボードを打ち始めた。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。


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