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ライジング! 第22回

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天神旭也の現・担当編集は、松田の三年先輩の藤本だった。彼は大学まで柔道をやっており、その名残で今でも体はがっしりしている。漫画誌の編集部は激務で、それなりに不規則で不摂生な生活をしている筈なのだが、藤本の体型は入社以降ずっと変わっていないらしい。
そんな藤本が、天神の自宅へ原稿を取りに行くというので、先生に許可を貰って松田も同行させてもらうことにしたのだ。
天神の自宅は巣鴨にある。照鋭社のある神保町からだと、都営三田線一本で行けるのでとても楽だ。松田と藤本は巣鴨駅を降り、先生の自宅へと歩いて向かっていた。

「しかし、松田も大変な役目を仰せつかったな」

藤本が首をゴキゴキ鳴らしながら言った。それが彼のクセなのだが、あまりにも豪快に鳴らすので、少し心配になる。

「いやはや、まったくです」

「コシさんってたまに驚くような指示出すんだよな。グラビア誌から異動してきてすぐのオレを、天神先生の担当にするようウチの編集長に進言したのもコシさんらしいし」

「そうなんですか?」

「ああ。漫画なんか、グランドホープに来るまでほとんど読んだことのないオレをだぜ? 最初は冗談かと思ったよ……」

「何で藤本さんがいいって思ったんですかね?」

「さぁな。……でも、あの人なりのロジックは必ずある筈だ。いいか松田」

赤信号で足を止めた藤本は、首をゴキっと鳴らして松田の方を見た。背は自分の方が高いのだが、藤本の妙な迫力に圧倒されて、松田は思わず半歩下がってしまった。

「な、なんでしょう」

「うちの会社で、ああいう摑みどころの無いタイプの人は二種類に分かれる」

「二種類……」

「引くほどの無能か、驚くほどの有能か、その二種類だ。コシさんはどっちの香りもするんだが、恐らく後者だ。そんな人に選ばれたんだから、がんばれよな」

そういえば前に野島にも似たようなセリフを言われたことを、松田は思い出した。編集部員たちの小柴評価は、かなり高いらしい。

「行くぞ」

いつの間にか信号は青になっていた。さっさと前を歩きながら、藤本が空を仰いだ。

「……実は、オレはお前がちょっとうらやましいんだよ、松田」

「え?」

「だって、コシさんや野島先輩と一緒に漫画アプリを作るんだろ? なんか、楽しそうじゃないか」

藤本にそう言われ、松田は今自分が恵まれた環境にいることを再認識した。人生において、これほどのチャレンジができる機会も、そうそうないだろう。

「……つってる間に着いたぞ」

藤本の言葉に、松田は大きく深呼吸をした。

「行きましょう!」

「何でお前が仕切ってんだよ」

藤本は笑いながらインターフォンを押した。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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