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ライジング! 第19回

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敷きつめられた丸い石の上に、四角く切られた石が整然と並べられ、先を進むと横一列で規則正しく落ちる水のカーテンがある。その水のカーテンはスクリーンのようになっており〝Quebec(ケベック)〟という文字が投影されて踊っている。
道はそこで途切れていて、入り口は見当たらない。しかし――

「どうぞ」

ボーイの男性の案内に従って思い切って進むと、水のカーテンが左右に割れてその奥にあるドアが「スッ」っと左右に開いたではないか。
松田は自分がまるでRPGゲームの主人公になったような気がした。
店内に入ると、小柴と野島の背中が見えたのでそっとついていく。すると赤い絨毯が敷かれた階段が出てきた。その階段を降り、暗い道を右に曲がると小さな部屋が出てきた。中にはソファーやクッションがあり、小さなモニターも付いていた。カラオケ屋っぽい要素といえば、その小さなモニターだけだ。

「コシさん、これ本当にカラオケ屋ですか!?」

「カラオケ屋でありレストランでありバーでもある。……ちょっと先に頼んでたもの受け取るから、適当に始めてて」

そう言って小柴は店員とどこかへ消えてしまった。

「頼んだものって何ですかね、野島さん」

「カヌレだよ。天神先生の奥さんへの手土産用だな」

「カヌレ……って何ですか?」

「お菓子だな。ちくわぶを四センチぐらいに切って、周りを甘くコーティングしたような見た目だ」

「その例え合ってます!?」

「大体。店で出してたのが好評過ぎて、販売も始めたっていう経緯があるみたいだ。女性を中心に、流行しだしているらしいぞ」

「じゃあカラオケじゃなくて、カヌレを買うのがメインの用事だったんですね」

「そういうこと。……適当に頼んでいいか?」

メニューを開いた野島に「はい」と返事をして、松田は改めてソファーに深く座った。思っていたより沈むのでちょっと怖い。そして自然と天井が目に入る体勢になったのだが、天井はなんと鏡張りだった。
鏡の中には、不思議そうな顔でこちらを見つめる自分がいる。じっと目を合わせているうちに、松田は何だか愉快な気分になってきてしまった。手を振ったり、笑いかけたり、急に真顔になったり。自分と同じ動きをするのが妙に面白い。

「……鏡見るの初めてじゃないよな?」

野島の声にはっと我に返った松田は、いつの間にかテーブルに料理が並んでいるのに気が付いた。長い間、鏡で遊んでいたようだ。急に恥ずかしくなった松田は、照れ笑いをした。

「へへっ……変わった店ですよね」

「お前には負けるよ」

野島の言葉は、いつでも的確だ。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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