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ライジング! 第112回

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権田はピカピカのアルマーニのスーツをスマートに着こなし、誰よりも悠然と会議室に入って来た。七十歳は超えているだろうが、肌艶は驚くほどよく、白髪も一切見えない。目元は猛禽類を思わせるほど鋭く、かすかに湛えた笑みが、かえって彼の迫力を倍増させていた。

「どうも初めまして。会長の権田です」

空気をビリビリと振るわせるようなよく通る声で権田があいさつをすると、思わず気圧された服部が生唾をごくりと飲み込んだ。値下げ交渉は到底無理だろう。
不安になった服部がチラリと他の三人を見ると、彼らも大げさなほどの驚愕の表情を顔に張りつけていた。ここは自分がしっかりしなければ。
そう思った服部は平静を取り戻して「お座りください」と相手に着席をうながした。するとその時、権田がピシリと言い放った。

「その前に言うことがあります」

「な、なんでしょう……」

猛禽類の目に射すくめられ、服部は背筋を伸ばした。その背中にツーと冷や汗が伝っていくのがわかる。
権田が口を開いた。

「この度は、本当に申し訳ございませんでした」

「……は?」

訳が分からず口をポカンと開けた服部の視線の先で、権田が深々と頭を下げた。

「今後はこのようなことが無いよう気をつけますので、どうかお許しいただけませんでしょうか」

目の前で一体何が起きているのか……。
理解ができない服部は能面のような顔を「はあ?」と大きくゆがませた。そして、もっと焦っていたのがナノ&ナノサイドだった。

「会長! 何を言ってるんですか!」

「おやめください! 私たちは何も悪くないんですよ!」

法務部と顧問弁護士のパニックは特に顕著で、必死に権田の体を起こそうとしていた。
そんな二人に「やめろ!」と一喝した権田は、再び謝罪の言葉を口にした。

「中途半端な仕事で御社を困らせてしまい、本当に申し訳ございませんでした」

その言葉を聞いた小柴は、驚きの表情のまま口を開いた。

「ダイち――」

小柴のセリフの後半は松田の手により防がれた。小声で松田が耳打ちする。

「ここではその名前で呼んじゃダメですよ」

そう、ナノ&ナノ現・会長の権田大五郎は〝若林〟常連のダイちゃんだったのだ。飲み屋での存在感のなさがウソのように、今はここにいる全員を圧倒している。

「しかし契約上では――」

「そうじゃない」

顧問弁護士の言葉を遮って権田が我が子を諭すように説明をした。

「これは〝法〟ではなく〝筋〟の問題なんだよ。今回の件は完全にこちらの落度。こんな仕事でお金を頂くなんて、とんでもない。……菅はどう思う?」

「はっ、はい! 会長のおっしゃる通りです! 自分はいくら減俸されても構いませんが、照鋭社さんからお金をいただくなんてことはできません!」

「部下はこう言ってるが、本山(もとやま)はどう思うんだ?」

話を振られた菅の上司は、何度も頷きながら場の流れに乗った。

「会長とまっっったくの同意見でございます」

長いものに巻かれて出世してきた本山は、いともたやすく舵を逆に切った。こうなると法務部の佐藤も老顧問弁護士もお手上げだ。反論することをやめ、だんまりを決め込んでいる。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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