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ライジング! 第105回

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「コシさん、サッポロ派じゃなかったんですか? 僕の中では赤星とか黒ラベルのイメージなんですけど」

「ああ。いつもならそうだよ。でも最近、鮨屋に限ってはアサヒにするようにしたんだよ」

「えっ、どうしてですか?」

「鮨屋で瓶ビールは何があるか聞くと、店によって置いている銘柄はちがうんだけど、アサヒがある率が異様に高くてさ。中にはアサヒだけって店もあった。妙に気になったから、アサヒだけ置いてた店の大将に理由聞いたら、アサヒは料理の味を邪魔しないからなんだってさ」

「確かにキレ味が良くてあっさりしてますもんね」

松田はサントリー派だったが、スッと入って来るアサヒの飲み味も好きだった。

「プロが言うんなら試してみようかってなわけで、鮨屋ではアサヒを頼むようになったんだよ。そしたらこれが意外に良くてさ」

二人が会話をしている間に、女将が瓶ビールを持って来て、それぞれのコップに七対三の黄金律でビールを注いだ。

「おつかれさん」

軽くグラスを掲げて、松田はビールを飲んだ。喉を押し広げるようにジョッキで豪快に飲むのも好きだが、喉を駆け抜けさせるようにコップで少量を飲むのもまた美味しい。気が付くと目の前には一品目の料理が置かれていた。どうやら白身をあぶったもののようだが、しょうゆ皿で謎の黄色い液体が一緒に出されていた。
この液体は何だろう。そんな疑問が顔に出たわけではないだろうが、大将が説明を添えてくれた。

「黄味醤油をつけてお召し上がりください」

どうやら卵黄と醤油を混ぜたもののようだ。言われた通りに食べてみると、醤油の塩辛さと黄味のまろやかさが上手く絡み合って美味だった。白身はのどぐろだろうか。脂がのっていて、噛むと旨みがしみだしてくる。
出された二切れをアッという間に平らげた松田は、目の前に残った黄味醤油を見て思案した。単体で舐めてもかなり旨いだろうけど、そんなことをすると怒られるだろうか。ふと横の小柴を見ると、同じように黄味醤油を見つめていた。松田同様に悩んでいるようだ。
すると大将は、さっと黄味醤油の入った皿を下げてしまった。小柴を見ると、悲しそうな顔で松田の方を見ている。

「もったいないですね」

「おいしかっただけにね……。魚に対して黄味醤油が多すぎる気もするな」

「同感です。その辺の計算って大事ですよね」

ちょっとした不満をこぼした松田だったが、次に出てきた一品を見て自分の発言を恥じる結果になった。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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