
ライジング! 第93回
河原崎や大殿の尽力もあり、朝の五時になるとアプリは正常に動き出していた。
「これで解決ですね!」
笑顔を見せる松田を見て、河原崎はクールに答えた。
「いや、あくまで応急処置が終わっただけだよ。ずっと血は流れてる状態だね。輸血してるから死にはしないけど、抜本的解決には至ってない」
「そんな……」
「しばらくは大丈夫だけど、ユーザーが増えると今の方法でもいずれ限界が来るね」
「そうですか……でも、ここまで回復していただいてありがとうございます」
「別にいいって。プログラマーってさ、中身の分からない箱を渡されると、開けて中がどうなってるかを覗いてみたくなっちゃう人種なんだよ。オレも久々に知的好奇心が刺激されたよ。さて、もうちょっとやるから、キミは仮眠でもとりなよ」
「いえ、僕は平気です! 河原崎さんこそ寝てください」
「それは無理。一回作業に入ると、頭が冴えて二日は寝られないんだよ」
河原崎は涼しげな顔でそう言うと、指をコキコキ鳴らしてから再びキーボードを叩き始めた。
朝の十時になり、小柴が仮眠から目覚めた。机に突っ伏して寝ていたので、体のあちこちが痛い。ゆっくりと体を起こし、おそるおそる伸びをする。関節という関節が全て痛みを発したが、体の疲れはいくぶん取れている。
編集部を見渡すと、ほとんどの人間は一旦帰宅したようだった。河原崎だけがパチパチとキーボードを叩いている。小柴は〝マンガホープ〟が危機を脱したところで安心して仮眠を取ってしまったが、河原崎はずっと作業していたようだ。
小柴は河原崎の元へ行き、ねぎらいの声をかけた。
「お疲れ様です。少しはお休みになられました?」
「いえ、あんまり疲れてないので。あ~、でも外のコーヒーメーカー勝手に使ってエスプレッソだけ何杯かいただきました」
「どうぞどうぞ。もう何リットルでも飲んでください。食事はどうされますか? 出前取りますけど」
「昼になったらいただきます」
「分かりました」
そう言って小柴が廊下に出ると、打ち合わせスペースで野島と松田が何やら深刻な顔で会話をしていた。
「あ、コシさんおはようございます」
「おはよう。キミらは寝てないのか?」
「いえ、オレもタイヨーも朝方寝て、ついさっき起きたところです。それでちょっと相談というか考えがあるんですけど、コシさんにも聞いてほしくて」
「分かった。ちょっと待っててくれ」
トイレを済ませて、顔を冷たい水でバシャバシャ洗うと、頭がだんだんスッキリと目覚めてきた。ハンドペーパーで顔の水滴を拭い、打ち合わせスペースに戻って椅子に座ると、松田が待っていましたといわんばかりに身を乗り出した。
この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。