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ライジング! 第95回

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夢岡は自宅のベッドに座り、身支度を整える小春の姿を見ていた。旦那には出張先から直接出社すると伝えているらしい。二人とも同じ職場に行くのだが、不倫関係がバレるとまずいので出社タイミングはズラしたい。そのため、夢岡の家に泊った日は小春が先に家を出るのがお決まりのパターンだった。

「あ~、昼から会議なんて最悪」

小春は文句を言いながらメイクをしていた。夢岡はプライベートから仕事モードに切り替わるこの瞬間がたまらなく好きだった。

「そういえばハルちゃん、昨日言ってた〝マンガホープ〟に仕掛けた爆弾って何?」

「ん? ああ。氷上に頼んでおいたのよ。メンテ爆弾をね」

「メンテ爆弾?」

「そう。氷上には、『とりあえず動くけど、多数のユーザーの負荷には耐えられない』ように手を抜いてアプリを作ってもらったでしょ」

「そうですね。人が集まれば集まるほど不満も高まって悪評が広まるようにしてもらいました」

頭が仕事モードに切り替わり、夢岡の小春に対する言葉は自然と敬語に変わっていた。

「そうなると、運営としてはどうしてもメンテナンスを入れたくなるじゃない?」

「普通そうしますね」

「それが自爆スイッチ」

小春はパチンと指を鳴らした。

「メンテナンスに入ったら一生そこから抜け出せなくなるようにしてもらったのよ。具体的なことは分からないけど、氷上の説明では、メンテナンス画面への入口は作ったけど出口は存在しないらしいわよ」

「じゃあメンテ開始がアプリ終了の合図なんですね。……気の毒に」

「明けないメンテにユーザーの不満は高まる。そこで、私たちの漫画アプリ〝まんがウェーブ〟がローンチされるってわけ」

〝マンガホープ〟から遅れること一か月。大波出版からも青年誌漫画アプリ〝まんがウェーブ〟がローンチされることが発表されていた。当初の小春の予定では、氷上に開発を遅らせて、〝まんがウェーブ〟を先にローンチさせたかったのだが、それは間に合わなかった。そのため、〝マンガホープ〟のスタートでの不具合とメンテ爆弾を仕掛ける作戦を思いついたのだ。
〝マンガホープ〟への期待値が高いほど、それが失敗したときの漫画ファンの落胆は大きいだろう。そのタイミングで大波出版から〝まんがウェーブ〟がリリースされれば、漫画ファンはそちらに飛びつくと計算したのだ。〝マンガホープ〟が大々的に宣伝して獲得したユーザーを、そのままごっそり頂けたら、これほど効率的な話はない。

「一晩明けて、そろそろメンテに入ってるかしら?」

小春に言われて夢岡は〝マンガホープ〟のアイコンをタップした。少しのタイムラグのあと、トップ画面が出てくる。

「まだメンテには入ってないみたいですね。あと……」

「あと、何?」

小春の質問に夢岡は怪訝な顔で答えた。

「何だか、昨晩に比べてちゃんと動くようになってる気がします。何でだろう……氷上の説明では、時間が経って人が増えるごとに動きは悪くなるってことだったのに」

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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