ライジング! 第41回
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ライジング! 第41回

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菅は電話を切ってから顔をしかめた。

「お忙しいのに、は言うべきじゃなかったな」

定型文的に使っただけなのだが、最近暇を持て余しているという氷上には皮肉に聞こえたかもしれない。
菅は氷上の最近の動向をよく知っていた。伝手を使って知り合いに調べてもらっていたのだ。仕事を頼む前の、ちょっとした下調べというやつだ。
菅はかつて、大ヒットしたアプリのプログラムを氷上に手掛けてもらったことがあった。その手腕は神業といっても良いぐらいで、菅はすぐに氷上のプログラムに魅了されてしまった。しかも、自分の犯した大きなミスで開発が大幅に遅れそうになったときも、氷上が連日徹夜で作業をし、リカバリーしてくれたこともあった。菅は氷上に大きな恩義を感じていたのだ。
それから数年後の現在、菅は氷上に恩返しするなら今しかないと考えていた。どうやらEセサミが経営難で、会社を畳む日も遠くない……という噂が業界内でたち始めたのだ。倒産する会社から、氷上を救い出したい。そう考えた菅は、上層部に氷上をプログラマーとして引き抜いてはどうかと提言した。しかし、なかなかいい返事は貰えなかった。いまさらピークを過ぎたプログラマーを新たに抱えるほど、我々も余裕があるわけじゃないよ……と。
菅としては、氷上はピークを過ぎておらず、まだまだ第一線で活躍できると信じていた。しかし、言葉でいくら言っても上層部は首を縦に振らないだろう。何か大きな実績があれば、説得もしやすいのだけれど……。
そんなことを考えているときに、小柴から〝マンガホープ〟の話を貰ったのだ。当初は自社で開発するつもりでいた菅だったが、納期や予算やナノ&ナノの開発ラインの状況を考慮すると、下請けに出すのがベストだという結論になった。
そのとき、まるで天啓のように氷上の存在を思い出したのだ。
彼の腕があれば、ユーザーフレンドリーで使いやすい漫画アプリを開発してくれるだろう。ヤングホープ編集部も絶対に満足してくれるはずだ。世間からも評価されるアプリになるだろう。となれば、氷上を自社に引き込む説得材料に十分なりうる。
あの人はこれだけすごいアプリをプログラミングしたんだ。ナノ&ナノに入って貰わないと絶対に後悔しますよ! と、上層部に強く言えるはずだ。
自分の思い付きを気に入った菅は、Eセサミにいる知り合いに頼んで、氷上の状況をこっそりと聞いてみた。驚くことに、氷上はあまり仕事を与えられずに、不貞腐れてゲームばかりやっているという。
ますます彼を救い出さなければと感じた菅は、いてもたってもいられなくなり、今日電話をしたのだ。
やる気さえあれば、氷上はまだ立ち直れる。そしてそのやる気は、少し電話で話しただけだが、十分に感じ取れた。今日これからの会合で氷上に正式に仕事を依頼し、次の照鋭社での打ち合わせには氷上を連れていこう。菅は「よしっ」と呟き、氷上との待ち合わせ場所へ向かった。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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