
ライジング! 第6回
「なんですか?」
松田が問いかけると、野島は首をかしげながら言った。
「オレがこのプロジェクトに誘われたのも謎だな……。前々から紙以外の漫画の可能性について考えていて、漫画アプリを作るのも面白いかもなと思ってたんだけど……」
「だから誘われたんじゃないですか?」
「いや、誰にもそれを言ったことなかったのに、コシさんはピンポイントでオレを今回のプロジェクトに誘って来たんだよ。……不思議だ。今度聞いてみるか」
一人でブツブツ言い始めた野島を見て、松田はなんだか羨ましい気持ちになってしまった。独自の視点を持ち、本質を見極める術に長けている小柴。そんな彼に選ばれた野島はきっと大いに期待されているのだろう。それに比べて自分は、デジタル開発部に邪魔者扱いされただけ……。
悔しさをかみ殺すように、生ぬるくなったビールを飲み干す松田。やけに苦い。
そんな松田の様子に気づかず、野島は言葉を続けた。
「あと、編集は接着剤だってのがコシさんの持論でね。自分じゃ何もできないから才能ある人同士をくっつけて初めて仕事になるんだ、って。だからいつも自分を助けてくれる才能を探してる。あの人は適任者の発掘と配置に定評があるんだよ。タイヨーはそんな人に選ばれたんだから、頑張ってくれよ」
野島の言葉に、松田は肩を落として口を尖らせた。
「別に僕が選ばれたわけじゃないでしょ。分かってるんです。デジタル開発部から誰でもいいから一人連れて来なくちゃいけなくて、部長が一番ヒマな自分を選んだだけなんでしょ? 体よく仕事を押し付けられただけなんです」
「はぁ……お前さぁ」
ため息を吐いた野島が顔をしかめた。
「名前の割に卑屈だなタイヨー。半年前のことはもちろん知ってるけど、いちいち落ち込んでちゃ仕事になんないぞ。あと今回のプロジェクトにお前を選んだのには、ちゃんとコシさんなりの理由があるんだよ。オレはちゃんと聞いたから知ってる」
「じゃあその理由ってなんなんですか」
酔いも手伝って、少しケンカ腰になる松田の肩を、野島はポンと叩いた。
「今のお前に言っても伝わらない気がする。また今度教えてやる」
今度っていつですか、と松田が聞こうとしたそのとき、小柴がトイレから戻ってきた。
「飲んだ量の倍ぐらい出たな……」
「んなわけないでしょ」
軽口を叩く小柴と冷静にツッコむ野島。松田はどこか複雑な気持ちで、二人を見続けた。
この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。