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ライジング! 第118回

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強烈な喉の渇きで目が覚めた松田は、見慣れない天井に首をかしげた。自分は一体どこで寝ているのか。体を起こすと、見慣れた光景がそこにあった。

「ああ、会議室か」

松田が寝ていたのは照鋭社の各階にある小さな会議室だ。小さいながらソファーもあるので、そこで仮眠をとる人も多い。
痛む関節をほぐしていると、松田は段々と昨日の出来事を思い出してきた。
中華屋の後は三軒ハシゴして、結局全部で四軒の店を飲み歩いたのだ。参加者は店を変えるごとに減って行き、最終的に残ったのは松田と小柴と野島の三人だった。四軒目も営業終了だと追い出され、でもなんとなく帰りがたかった三人は、始発まで飲もうと編集部に戻ったのだった。
松田の記憶はそこで途切れている。きっと力尽きて寝てしまったのだろう。
ふとテーブルを見ると、ペットボトルに入ったミネラルウォーターが二本置いてあった。小柴か野島が置いてくれたのだろう。松田は一本を手に取って一気に飲み干すと、「ふう」と息を吐きだした。まだ渇きは収まらない。二本目のキャップを開けて、今度はゆっくりと飲み始める。
そこで気づいたのだが、テーブルには小柴からの書き置きがあった。

『野島と私は先に帰ります。お水を飲んで、ちゃんと酔いをさましてから帰るように。あと、一軒目のドッキリごめんね♡』

可愛いハートつきの文字を見ていると、絶妙なタイミングで吐き気が襲って来た。

「んぐ……起き抜けにおじさんのハートマークはきついな……」

ふらつく体でトイレに行き、用を足してから洗面台で顔を洗い、コーヒーメーカーで濃い目のコーヒーを淹れて休憩スペースに座ると、自然と吐き気は収まっていた。
時刻は六時を過ぎたところだ。ブラインド越しでも外が明るくなっているのが分かる。するとそのとき、松田は不意に、自分が社内で冷遇されていたときのことを思い出していた。
何でそんなことを思い出すのだろうか。

「あっ、そうか」

原因は窓の外の景色だ。やることがないときは、いつも自分の席から外を眺めて、陽が沈むのを待っていた。とにかく一日が終わることだけを祈って過ごす日々だったのだ。
窓の外を見て太陽の動きを観察する――。
当時と同じ行為を取ったがゆえに、昔を思い出したのだろう。
でも今はちがう。当時とは全くの逆。日の出を待つ状況だ。松田は指でブラインドにスキマを作って外を見た。まさに太陽が昇って来ていた。
〝マンガホープ〟のバージョンツーは立ち上がったばかり。この先様々な困難が待ち受けているだろう。自分のように、沈んでしまうこともあるかもしれない。でも大丈夫、たとえ沈んでも、また昇って来ればいいのだ。
コーヒーを飲み干し、カップを捨てた松田は身だしなみを整えて会社を出た。
少し冷えた朝の空気を吸いながら歩いていると、完全に姿を現した太陽が背後から日光を浴びせかけてくる。伸びた影の周囲で、アスファルトがキラキラと光っている。松田にはそれが、未来を照らす希望の光に見えた。

――完―—

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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