
ライジング! 第67回
二月二日、小柴は一人でなじみの薄い街の駅前に立っていた。というのも、行きつけのスナック〝かえで〟で気になることを言われたからだ。
小柴はそのときのことを思い出していた。
「小柴さん占いに興味ありますか?」
最近キャストとして入った、夕子(ゆうこ)という名の怪しげな雰囲気の女性が、いきなりそう聞いて来た。小柴は別の若いキャストと会話中だったので、気もそぞろにあっさりとした返事を返した。
「いや、特にないけど」
「じゃあ私が占ってあげましょうか」
〝じゃあ〟の意味が分からないなと思った小柴だったが、若いキャストの子が「夕子さんの占い当たるんですよ~」とはしゃぐものだから断りづらくなり、なんとなく占いをしてもらうことになったのだ。
夕子さんは年季の入ったタロットカードを器用にシャッフルし、カードの山を小柴の前に置いた。
「左手で一回カットしてください」
「分かりました。……まみちゃんハサミある?」
「え~、そのカットじゃないですよぅ~。小柴さん面白いんだから」
「そうか? ははは!」
若いキャストにギャグがウケてご満悦の小柴だったが、夕子さんをチラリと見ると、真顔でじっとこちらを見ていた。
「……すいません」
思わず謝り、小柴は山札を適当につかんで横に置いた。夕子さんは残った札を、小柴が置いた山札の上に置き、一番上のカードを表向きにしてテーブルに置いた。
「なるほど」
夕子さんはそう言うと、今度はカード何枚かを裏向きのまま脇へと置いた。そしてまた一枚を表に。そんなことを繰り返して、場にカードを五枚出した。
「危険ね……あなたこれは危険よ」
急に夕子さんはフランクな口調になった。〝〇〇の母〟と呼ばれるタイプの占い師のような喋り方だ。
「何が危険でしょうか?」
ノリを大事にしたい小柴は、真剣な口調で夕子に尋ねた。
「今年は仕事上で大きな災難が降りかかるわ。そういう運命なのね」
就職して以降、仕事で災難が降りかからなかった年は無い気がするな……とは思ったものの小柴は大きめのリアクションで「何ですって!」と驚いた。不思議なもので、相手に合わせて演技しているうちに小柴は本当に占いの結果が気になりだしていた。
「かなり大きな災難よ。厄が来るのね」
「なんてこった……」
小柴が不安そうな表情を見せると、夕子さんはにこりと笑った。
「安心なさい。厄除けをすれば最悪の事態は回避できるわ」
「厄除け?」
「そう、厄除けよ」
「厄除け……」
小柴は壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返した。もしかしたら壺やお札の類が出てくるかもしれない、と身構えていたので、少し拍子抜けしたのだ。
この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。