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ライジング! 第115回

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バァン!
大きな音をさせて、氷上がテーブルに両手をついた。完全に頭に血が上った氷上が、ガラス製の大きな灰皿を手に掴む。顔は真っ赤で目は焦点が定まっておらず、我を失っているようだ。

「あぶない!」

氷上が灰皿を振りかぶったのを見て、夢岡が上條に覆いかぶさった。
ガコン!
鈍い音が聞こえ、続けて「キャアアアアアア!」という悲鳴が店内を満たした。テーブルには頭を血で染めた夢岡がいる。その傍らで、ガラスの灰皿を持った氷上が虚ろな表情のまま肩で息をしていた。
早く警察呼ばなきゃな……そういえば、この店の近くに交番があったな……。
まるで他人事のようにそう思いながら、氷上は全く動かない夢岡を見おろしていた。

野島にことのあらましを聞いた松田は、信じられないといった様子で首を振った。

「ドリー……夢岡の容態はどうなんですか?」

「命に別状はないらしい。でも頭を十針以上縫う大けがだとさ。それにケガした箇所が箇所だけに、しばらくは絶対安静だろうな」

この日は二人で〝かんきち〟に来ており、そこで野島が氷上の起こした事件について語っていたのだ。二人の目の前にあるB弁当のフタは閉じられたままだ。

「なんでそんなことに……」

「対外的には仕事上のトラブルって発表してるみたいだけど、オレとコシさんの見解は〝マンガホープ〟の裏工作絡みの支払いトラブルじゃないかってことで一致してる。あと上條って編集長と夢岡ってヤツは不倫関係だったみたいだな。ずいぶん前からヤングウェーブ編集部内では話題になってたみたいだけど、今回の件でいろいろ明るみに出たらしい。離婚と懲戒処分のダブルパンチは免れないとさ」

出版社のライバル同士とはいえ、同じ業種である以上はイベントなどで顔を合わせることも多い。そのため、個人同士での横のつながりは多々あるのだ。野島は大波出版にいる知人から今回の情報を仕入れていた。

「ま、悪いことはやっちゃいけないってことだ。……食おうぜ」

そう言うと野島はB弁当に取り掛かった。松田はしばらく野島の旺盛な食欲を眺めていたのだが、気を取り直したように箸をパキンと割った。

「そうですね。あいつも今回の件で懲りたらいいんですけど」

海苔の乗ったご飯を大きめに持ち上げると、松田は大口をあけてそれを頬張った。相変わらず美味しい。もうすっかりそうなっていたが、さらに忘れられない味になりそうだ。
何度も噛むうちにうっすら涙が浮かんできた松田だったが、それをご飯と一緒にゴクリと飲み込んだ。

「野島さん、僕またこの店に来るペースが早まりそうです」

「そうか」

松田の想い全てを汲み取ったように、野島は短い言葉で返事をしたのだった。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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