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ライジング! 第13回

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「お母さん曰く、ビールが美味しい店とマズい店の差は〝ビールサーバーをしっかり洗浄しているかどうか〟らしい」

「え、そんなことなんですか?」

「そう、そんなことらしいんだよ。理想は毎日洗浄することらしいんだけど、ついついサボっちゃう店や、そもそもサーバーの洗浄がそんなに大事なことだと思っていない店もあるみたいでさ」

その時、店員さんが一品目の料理〝柿のナマス〟を持って来た。柿を使った酢の物である。柿の実をくりぬいて器にしており、大根を細く切ってつくられたナマスの上には、黒ゴマが軽く振りかけてある。見た目からして美しい。
ナマスを口に入れると、酸味と同時に甘みも感じる優しい味になっていた。大根に柿の甘さがほんのり移っているのだ。底にはサイコロ状に切った柿の実があり、上にかかったペースト状のソースも柿の実を使ったもののようだ。恐ろしく手間のかかる一品だ。
松田は一度に食べるのがもったいなくなり、ちびちびとつまみながらビールを呷る。料理に合わせて飲むと、ビールもよりおいしく感じた。

「にしても、ビール会社もたまったもんじゃないですね。いくら美味しいビールをお店に渡しても、管理不足のサーバーのせいでマズいなんて思われちゃって」

「だよなぁ。ビールメーカーも、サーバーの洗浄は小まめにするようにって言っているらしいんだけど、守らない店も多いってさ」

「手順さえ守れば美味しいビールが出せるのに……」

松田が言うと、小柴が彼をピシリと指差した。

「そこだよタイヨー!」

「うわっ! びっくりした! 何ですか急に」

思わずのけ反る松田に小柴が言う。

「今日誘った理由を思い出したんだよ」

「理由あったんですね」

「うん。今日は理由がある日。アプリ作る手順を詳しく聞いておこうと思って。今やってるのが企画の打ち合わせでしょ? それが終わったら次はなに?」

「企画打ち合わせが終わったら、次は要件定義ですね」

要件定義というのは、アプリの設計図を書く一歩手前の作業である。アプリを作って欲しい依頼主と、実際にアプリを作るプログラマーは別人だ。この両者に認識の齟齬があってはならない。そのために作る、いわゆる合意書のようなものが要件定義である。
ホーム画面はこれで、表示された特集画面にどんなものを置いて、戻るときはどこをタップして……など、決めるべきことは多岐にわたる。それを一つ一つ漏れが無いように定義していくのだ。これはとても時間と労力を費やす作業なのだが、必ずやっておかなければならない。
もし要件定義に漏れがあり、納品されたアプリに不具合があったとする。その場合も、要件定義に書かれていることが全て満たされている場合は、完成品を納品したことになってしまうのだ。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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