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ライジング! 第61回

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それは、アプリ作成が順調だということを説明する資料だった。実際にはできていない部分を「こういう感じに動きます」と説明する、いわば張りぼての資料だ。これを見せれば、打ち合わせは切り抜けられるかもしれない。しかし、現に開発は進んでいないので、その場しのぎにしかならないだろう。

「こんな資料作ってるヒマあったら、もっとプログラミング作業を進めるべきじゃないですか!」

「うるさい! いいから黙って作れ。あとお前、そんなに仕事が好きなら管理画面周りも担当させてやる。入稿や課金に関わる部分だから、まちがいがあると大問題だからな! 手を抜くなよ!」

氷上はそれだけ言うと、またパソコンの画面に視線を戻した。

「分かりました……やります」

それだけ言うと、郡家は失意のまま自分の席に戻り作業を始めた。彼の眼には、涙が光っていた。


一月末、照鋭社での定例打合せの場に、氷上が打ち合わせにモックアップを持って来た。モックアップとは、ネット通信を介さずに動かす、いわばテストバージョンのようなものだ。

「こんな風に動かすことを想定しています」

氷上はタブレット画面を見せながら、画面デザインやインターフェースを松田たちに見せていった。

「めっちゃいい感じにできてますね」

松田は喜びの声をあげた。インターフェースは漫画アプリの肝。プログラミングに入るまでの打ち合わせでしっかりと話し合って決めた部分なので、想定通りに動いているのを見ると感慨もひとしおだ。
すると、じっと腕を組んで画面を見ていた野島が口を開いた。

「配信する漫画作品を入稿する管理ツールも見たいですね」

「管理ツールですね……えっと、少々お待ちください」

氷上はそう言ってスマホを持ちながら会議室の外へと出て行った。打ち合わせで彼が初めて見せる慌てた姿だった。

「もしもし! 管理ツール周りはできたのか? ……まだ!? 何やってんだ! 言い訳するな! お前に任せたんだからしっかりやれ! いいな!?」

ドアのすぐ外で通話しているので、電話の声はしっかりと聞こえてきた。松田は、もう少し離れた場所で通話すればいいのに……と思いながら聞いていた。

「すいません、ちょっと担当者の作業が遅れてまして……」

会議室のドアを開けながら、氷上が申し訳なさそうにぺこぺこ頭を下げた。

「時間はたっぷりあったのに、どうもサボり癖のあるヤツで」

「そうですか……管理ツールの使い心地はぜひとも知っておきたかったんですが」

野島が残念そうに言うと、氷上は今一度頭を深く下げた。

「申し訳ないです!」

「まあ一つここは踏ん張ってもらって、なんとか間に合わせましょう!」

会議室の空気が重くなったのを見て、菅が明るい声を出した。いつもなら小柴も追随して冗談の一つも言うところなのだが、彼は珍しくじっと黙っている。その姿が、やけに印象に残る松田だった。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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