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ライジング! 第11回

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「今日はありがとうございました」

はつらつとした態度で菅が頭を下げた。
ずっと喋りっぱなしだったので少し声はかすれているが、態度はまだ元気そのものだ。
松田は、座って話を聞いていただけなのに疲れている自分が恥ずかしくなって、居住まいを正した。

「こちらこそありがとうございました」

「疲れましたか?」

「いや、まぁ、少しは」

「〝少し〟なら上出来です。私は大変疲れました」

「いや、実は自分もかなり……」

そう言って松田が顔をしかめると、菅は「正直な人ですね」と笑い声をあげた。妙に人懐っこい笑顔だ。
するとそこへ小柴がやってきて、菅の肩に手をポンと置いた。

「ガースー今日はありがとうね」

「いえ、こちらこそ!」

「私も長時間の打ち合わせには慣れてるけど、これだけ発言しながらの打ち合わせは久々だったなぁ」

ニコニコしながら充実感を滲ませる小柴が、ふと真顔になって菅に訊ねた。

「質問なんだけど、打ち合わせが全て終わって開発に着手できるようになった状態が富士山の天辺だとすると、今は何合目まで来てる感じ?」

菅は即答した。

「登山道をどこにするか決めてる段階なので、何合目かでいうと0合目ですね」

「ゼ……ゼロ!?」

小柴が目を見開いた。

「じゃあ富士山にはまだ一歩も足を―」


「踏み入れてません」

「杖にする六角形の棒も買って―」

「ません」

「なんてこった……じゃあまだ、山頂で食べる予定のカップラーメンの味も決めてないってことか……いや、それは違うか。最初から決まってる人もいるもんな。現に私はいつもシーフードだし……」

「何をブツブツ言ってるんですか」

独り言に割って入った松田の顔を見て、小柴は改めて驚きの声をあげた。

「だってまだゼロなんだぞ! ズィロ!」

「何で良い発音で言い直したんですか!?」

ツッコミついでに、松田は言葉を足した。

「アプリ開発は、計画段階が一番大事と言っても過言ではないんです。ここを疎かにすると、あとで大事故が起きたりするので、時間をかけてやる必要があるんですよ」

松田の言葉に、菅が頷いた。

「その通りです。打ち合わせはまだまだ続きますよ。体力勝負になるんで頑張りましょう! では!」

その言葉を残してさっそうと帰って行く菅の背中を見ながら、小柴は「ズィロ……」と小さく繰り返していた。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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