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ライジング! 第100回

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店内は大衆食堂のような雰囲気で広々としており、二階もあるようだ。夜営業が始まったばかりだからか、お客さんの姿はまだない。
お好きな席へと言われ、野島は一階の奥の席へと向かった。迷いのない足取りから察するに、いつも座る席が決まっているようだった。
腰を落ち着けた野島は、お冷を持ってきた店員さんにすぐさま注文をした。

「B弁当で」

今まさにメニューを開こうとしていた松田は焦った。食欲がないのでサッパリしたメニューを選ぼうと思っていたものの、あまり店員さんを待たせるのも悪い。松田はとっさに野島に乗っかることにした。

「同じので」

さっき野島が言っていた思い出の味がB弁当なのだろう。しかし、店員さんが去っていったところで、松田には疑問がふつふつと湧いてきた。

「野島さん、弁当ってことは持ち帰りメニューなんですか?」

この質問に野島は妙に納得したような顔をした。

「ああそうか、普通はそう思うよな。でもちがうぞ。店内メニューだ」

「じゃあなんで弁当なんですか?」

「ま、来てからのお楽しみだ」

野島はニヤリと笑うとお冷をごくりと飲んだ。そして不意に気の抜けた表情をしたかと思うと、両腕をグッと上げて大きく伸びをした。

「あ~~、しかし昨日からの二十四時間は大変な一日だったな」

「そうですね。体感的には三か月ぐらい経ったような気がします」

「それは言い過ぎだろ」

「でも〝マンガホープ〟は立て直せそうでよかったです」

松田の言葉に野島は顔をしかめた。

「まあな。でもEセサミが飛んだ影響は計り知れない。初日から人的リソースをトラブル処理に割かれて、本来やるべきだった宣伝活動に注力できなかった。悪評も広まったし、数か月後に予定していたバージョンアップもできないだろう。Eセサミがあんな感じだと別の開発会社に頼んで、また一からやり直しになるだろうからな。アプリが死ななかったのはせめてもの救いだが、かなりの痛手だな」

悔しさがぶり返してきたのか、野島は指先が白くなるほどコブシを握っていた。
そしてふっと表情を緩めて言った。

「こんな風にうまくいかないことがあった日には、なんとなく〝かんきち〟に足が向くんだよなあ」

「B弁当を食べるためにですか?」

「そういうこと」

野島がそう言ったとき、ちょうど店員さんがやってきた。

「お待たせいたしました。B弁当です」

「おっ……おお!」

松田は思わず声をあげた。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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