ライジング! 第57回
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ライジング! 第57回

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「デジタル開発部の松田くんだよ。マメシバの差し金でうちにしつこく訪ねて来て、私の作品を電子化させてくれって頼んだ子だよ」

「ああ。キミがあの」

高津は意味ありげな視線を送り、松田のウーロン茶を取りあげて代わりに自分が持っていたワイングラスを渡してきた。

「よし、もう顔は覚えたぞ。今日は楽しめ、松田」

「は、はい」

「じゃあな。たまには家に遊びに来い。妻がお茶をする相手がいないって寂しがってる」

天神と高津が去っていき、松田がボーっと立ち尽くしていると藤本がやって来た。

「よう松田。お前も結構注目を浴びるヤツだな」

「め、目立つ気はさらさらなかったんですが!」

「高津常務に何て言われたんだ?」

「顔は覚えたって……僕、殺されるんですかね!?」

「んなわけねーだろ。でもそうなっても骨ぐらいは拾ってやるから安心しろ」

「気休めにもなんないですよ!」

松田はそう言った所で喉がカラカラになっているのに気づき、一気にワイングラスを空にした。すかさず藤本が新しいグラスを渡してくる。

「今日は楽しめ、松田」

「僕にそう言うようにカンペでも出てるんすか!?」

「何言ってんだ。もう酔ったのか?」

藤本のセリフで、松田は己に課していた重要なことを思い出した。

「しまった! 禁酒してたのに!」

夢岡と飲んだときに記憶をなくすほど泥酔してしまい、地獄のような二日酔い状態の中で、年内は酒を断つと誓っていたのだ。
禁を破ってしまい落ち込む松田に、藤本は涼しい顔をして言った。

「ちょっとぐらいセーフだろ。うちの先輩の大迫さんなんか、医者から酒止められてたのに、人から勧められた酒はノーカンだってんで、禁酒中に飲みまくって最終的に肝臓壊してたぞ。肝臓にはノーカンって言っても通じないからな」

「そんな豪気な人と比べないでください!」

「豪気がたたって病気になったんだけどな。……笑えるぜ」

クスリともせずにそう言うと、藤本はどこかへ行ってしまった。
スタンドマイクのある壇上では、役員の乾杯のあいさつが始まっていた。

「薬師丸先生がいるということは、もう全員今年の入稿は終わったんですね」

遅筆の作家いじりに、会場が笑いに包まれた。
その笑い声を聞いているうちに、松田もだんだん愉快な気分になって来た。

「人から勧められた酒はノーカンか……いい言葉だな」

松田が一人で呟いていると、壇上の役員がグラスを掲げた。

「というわけで、カンパーーーイ!!」

会場中で「乾杯」の声が唱和される。
松田も人一倍グラスを高く掲げ、ワインを飲み干した。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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