ライジング! 第24回
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ライジング! 第24回

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「あの、天神先生の作品を、ぜひ電子化させていただけないでしょうか!」

「……久々だな。そのお願いを聞くのは」

そう言ってから天神は応接机の引き出しからタバコを取り出した。

「原稿中は禁煙しててね。だから原稿を渡した後に、応接室で吸うこの一服がたまらないんだよ。いつも来客中は我慢するんだが、吸っていいかな?」

「はい。もちろんです」

天神はライターでタバコに火をつけると、口をすぼめて深く吸いこんだ。

「フーーッ……」

ソファーに背を預け、天井に向けて紫煙をまっすぐに吹き出した天神は、ようやく人心地付いたようだった。

「電子化の話だったね」

「はい」

キッチリ話を聞いてくれる態勢になったのを見て、松田はすぐさま説明に入った。
今、青年誌初の漫画アプリを作っていて、そのラインナップに天神作品を入れたいこと。電子版で漫画を読む読者が増えていること。つまり電子化すれば、さらに天神先生の作品を読む読者が増えること。ひいては先生に入る印税も増えること。
なるべく詳しく、松田は電子化のメリットを説明した。話しおわると、天神はちょうど二本目のたばこを灰皿に押し付けているところだった。

「……どうでしょうか、先生」

「断る」

即答だった。
ある程度は予想していたものの、松田はこれほど完全拒否されるとは思っていなかった。自分の説明を大人しく聞いてくれていたので、少しは検討してくれると思ったのだが、そう甘くはなかったようだ。

「……どうしてでしょうか」

「どうしてもこうしてもない」

「何とか検討して頂けないでしょうか」

「検討して断っている」

もう取り付く島もない断り方だ。

「もういいかな? これから来週のネームを考えないと」

「あ、あの……」

もうどうしようもないのか。松田がそう思ったとき、お盆に紅茶とアップルパイを乗せた天神先生の奥さんが応接室に入って来た。

「あら、藤本さんはお帰り? せっかく持って来たのに」

「この若い方もすぐお帰りだ」

不機嫌そうな天神の言葉に、奥さんは目を見開いてから顔をしかめた。

「あらやだ! そんなひどいこと言って! お菓子ぐらい食べて帰って貰ってもいいでしょ! 不愛想な人でごめんなさいね~。あら、それってカヌレじゃないの!?」

奥さんは松田が渡した手土産に反応すると、「開けていいかしら?」と言ってその場でカヌレの箱を開け始めた。そして「これもいただきましょう」と言いながら、アップルパイを置いた皿にカヌレを置いた。
天神も奥さんからはイニシアチブをとれないのか、憮然とした表情のままテーブルを片づけている。

「あの、お気遣いなく……」

ようやく遠慮の言葉を発した松田だったが、そんな彼に対して天神がピシリと言った。

「食べて行きなさい」

「はいっ! いただきます! いただかせていただきます!」

天神先生に言われては断れない。松田は大人しくご相伴にあずかることにした。

「藤本さんの分はわたしがいただいちゃおうかしら」

天神の奥さんもそう言ってソファーに座ったので、天神夫妻と松田という妙な取り合わせでのティータイムとなった。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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