ライジング! 第104回
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ライジング! 第104回

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〝マンガホープ〟がローンチしてから二週間。松田は久々に小柴に飲みに誘われた。

「本当はナノ&ナノやEセサミ含めて大々的に打ち上げをやりたかったんだけど、そういう雰囲気でもなくなっちゃったから、個別でねぎらう方向にしたんだよ」

小柴は誘った理由をそう語った。
初日の危機を乗り越えてから、〝マンガホープ〟は徐々に息を吹き返していた。河原崎曰く、まだまだ砂上の楼閣でいつ壊れてもおかしくないそうなのだが、動作は良好だ。作業を仕切っているプログラマーの大殿曰く、河原崎の手腕で奇跡的なバランスを保っているらしい。

「大して役に立たないばかりか、もう少しで〝マンガホープ〟を終わらせるところだった僕なんかを誘っていただき、ありがとうございます」

「まだそんな卑屈なこと言ってるのか。キミは功労者の一人じゃないかタイヨー」

「いえ、ミスをたくさんしてご迷惑をおかけしました。そのことを忘れないために、今日も〝かんきち〟へ行ってB弁当を食べました。戒めです」

「B弁当が!? まるでご褒美みたいな戒めだな……っと、ここだな」

通りを少し中に入った小柴が、地下へとつづく階段を降りて行った。松田も後に続くと、綺麗な格子戸が見える。戸の脇には〝かなめ〟と書かれた表札がある。これが店名だろう。目線を下にやると行灯があり、優しい光が床を照らしていた。

「良さげな店ですね。コシさんよく来るんですか?」

「いや、前から目をつけてた鮨屋なんだけど、来るのは初めて」

格子戸とその先の暖簾をくぐると、清潔感あふれる店内が見えた。カウンターのみの七席。客側の照明は淡く、カウンターを照らす光はくっきりしており、松田はコンサート会場のステージを連想した。

「いらっしゃいませ」

髪を短く刈り込んだ大柄な店主が、ステージから挨拶をしてきた。一見こわもてなので気圧された松田に対して、小柴はにこやかに「よろしくお願いします」と返事をして席に座った。
すかさず女将さんがおしぼりを手渡してくれ、松田はホッと一息をついた。いつもならここでメニューを開くのだが、高級な鮨屋は基本的にお任せで料理が出てくるので、紙のメニューがないところが多い。〝かなめ〟も例に漏れずメニューが無かった。小柴は心得たもので、女将さんに「瓶ビールありますか?」と質問していた。

「アサヒとサッポロがございます」

「ん~、じゃあアサヒで」

小柴の注文に、松田は「おや?」という表情をした。小柴は瓶ビールを注文するとき、選択肢にサッポロがあれば必ず優先して選んでいた。それなのに今日はどうしてちがうのだろうか。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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