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ライジング! 第99回

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「そしたら電話口の人が、『氷上もプロジェクトのメンバーも、全員体調不良で休みです』って」

「それはいやはや……なかなかの対応だな」

小柴が目を見開くと、野島は逆に目をすがめた。

「ナメてるんですかね、我々を」

松田は怒りをあらわにする野島に背筋を凍らせつつ話を続けた。

「それで思ったんです。今日会社にいたということは、匿名の電話の主は、プロジェクトメンバーではないんだなって。そしてたぶん、〝マンガホープ〟のことを心配してくれている人……。つまり、ずっとプロジェクトに参加していて、最近外されたような人じゃないかと」

松田の推理は当たっていた。
菅に電話したのは新人プログラマーの郡家だった。彼はプロジェクトから外されてからも、〝マンガホープ〟のことをずっと気にしていたのだ。そしてローンチの翌日にプロジェクトメンバー全員が会社を休んでいるのを見て、氷上が〝マンガホープ〟にこれっぽっちも愛情を持っていなかったことを悟った。
郡家はメンテナンスのシステムが不完全なことに気づいており、氷上がそれを完成させずに納品していると確信した。
メンテナンスに入ったら〝マンガホープ〟が終わってしまう!
危機感を覚えた郡家は、氷上の机を探って〝マンガホープ〟関係者の名刺を探した。そして最初に見つけたナノ&ナノ菅の名刺を頼りに電話をかけ、メンテはしないように忠告したのだ。

「誰かは分からないけど、その子には報われて欲しいな……」

小柴が唸るように言うと、野島も同意した。

「ですね。正直な人間が最後には得をするような世の中であってほしいです」

野島の言葉に、松田は深く頷いた。

メンテの危機を乗り切った松田は、野島に誘われてごはんを食べに外へ出ていた。時間は十七時半。昼にご飯にしては遅すぎるし、夕ご飯には少し早い時間だ。しかも松田は気分が落ち込んで食欲が無かった。だが野島に強引に誘われ、仕方なく外に出てきたのだ。

「タイヨー、特に食べたいものの希望が無ければ〝かんきち〟に行っていいか?」

「〝かんきち〟……ああ、はい。実は僕、あそこ入ったことないんですよね」

「本当か? 珍しいヤツもいたもんだな……」

〝かんきち〟は照鋭社から徒歩三分ほどの所にある老舗の洋食屋だ。松田は店の存在はもちろん知っていたのだが、会社に近い分、他の社員に会ってしまう気がして少し避けていたのだ。

「オレたち世代の編集は訳あって定期的に行くんだがな」

「訳ってなんですか?」

「みんなにとって忘れられない思い出の味があるんだよ」

野島はそう言って笑うと、店へと入って行った。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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